第62話 マジックバッグ解析 〜訳が分からないから面白い〜
授業が終わったあとも、レンの頭の中では空間魔法の理論がぐるぐると回っていた。
(副次元領域に展開、座標固定……)
(いや、言葉としてはわかるけど──)
(空間を拡張?場所そのものを広げる?そんな現象、絶対に無理だろ)
(もし本当にそんなことができるなら……それこそ地球は”あの未来の猫型ロボットが活躍する世界”になってる。あの"底なしの収納空間"や"行きたい場所に一瞬で行ける扉"……)
(……でも、この世界では実際にそれが普通に動いてる)
学寮の自室に戻ると、レンは机に備え付けられたホログラム端末を起動した。クロエの端末画面が立ち上がる。
《お帰りなさい、レン様。空間魔法授業のデータは整理済みです》
「助かるよ、クロエ。さっそく術式の解析を始めたい」
レンは授業で配布された【マジックバッグ標準術式】の図面データを呼び出す。
そこには、文字と図形が複雑に絡み合った術式構造が並んでいた。
(……とにかく、まずはこの構造を分解してみよう)
《解析補助開始。術式構造を分解します──処理完了》
クロエの演算処理が進み、ホログラム上に分解された術式構造が次々と展開されていく。
《出入口座標指定部──副空間展開部──安定化制御部──魔力誘導回路──出入口同期領域──外部固定制御──……》
レンはホログラムをじっと見つめる。
(なるほど、パーツとしては整理できる。まるで回路図を読んでいる感覚だ)
(でも──)
「クロエ。これらの構造がなぜ空間を拡張することになるのか、そこはどう説明する?」
《構造上の役割分担は判別できますが、現象の成立原理は不明です。理論体系に不足箇所があります》
(つまり「ここにこう線を引けばこうなる」っていう”経験則”だけが積み重なってきたってことか)
(なるほど、地球でいうブラックボックス回路みたいなもんだな……)
「……クロエ、推測でもいい。今わかる範囲で補完モデルを作成してくれ」
《了解。仮説モデル構築──処理完了》
再構成された構造図を見ながら、レンは息を吐いた。
(訳が分からない……でも、だからこそ面白い)
(現象が起きているなら、必ずそこに“理屈”はある。
たとえ今は理解できなくても、どこかに法則が潜んでいるはずだ)
《次段階解析準備完了。レン様の指示を待機中です》
「よし、次は展開軸の詳細解析だ。そこに鍵がある気がする」
こうして、レンとクロエの空間魔法解析は静かに動き始めた──。




