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第60話 浮遊板制作 〜理解の積み重ね〜

 専門課程の次の課題は、浮遊板の製作だった。

 光晶灯に続く、術式理解の応用実技だ。


「浮遊板は術式職人教育の基本じゃ。魔石の魔力を受け、術式により一定高度を保つ。設計図は配布しておる。正確に刻むことじゃぞ」


 アスター教授の説明を受け、生徒たちは各自作業に取り掛かった。


 


 レンも手元の刻印板をじっと見つめる。

 術式配置はホログラムに映し出され、構造も頭の中で整理できている。


(魔力はまず整えられ、次に浮遊制御部で高さを安定させる──光晶灯と似ているが、ここに上下方向の安定化要素が加わるわけか)


 


 レンはゆっくりと刻印を進める。

 線の配置、交差の角度──魔力の流れを意識しながら一本一本を正確に刻んでいった。


 


 周囲の学生たちも、設計図を見ながら慎重に刻印を進めていく。

 各自、教わった通りに丁寧に線をなぞっていった。


 


 やがて全員の作業が完了し、魔石が装填された浮遊板が次々に起動される。

 板はゆっくりと浮かび上がり、所定の高さで安定する。


 


「おお、浮いた!」


「よし、安定してるな!」


 


 教室中に小さな歓声が上がる。

 浮遊板はどれも無事に浮き上がり、大きな失敗は見られなかった。


 


 アスター教授が生徒たちを見渡し、穏やかに頷く。


「うむ。みんなよくできておる。どれも正しく術式を刻めておるな」


 


 生徒たちに安堵の表情が広がる。

 その中で、一人の生徒が手を挙げた。


 


「教授……僕のもそれなりにできたと思うんですけど、レンくんの板はまるで微動だにしません。同じ設計図で作ったはずなのに、なぜあんなに差が出るんですか?」


 


 その言葉を受け、レンの浮遊板に皆の視線が集まる。


 


 改めてよく見ると──

 他の板はわずかに高さが前後したり、ほんの少し左右に揺れていた。もちろん許容範囲内の誤差ではある。

 一方で、レンの浮遊板はまるで空中に固定されたかのように、ほとんど微動だにせず静止していた。


 


 アスター教授は微笑んで答えた。


「良い質問じゃ。──確かに設計図は同じじゃ。しかし術式というものは、ただ文字や線を刻むだけで済むわけではないのじゃ」


 


 教授は教壇に置かれた板の刻印をなぞりながら説明を続ける。


「線の角度、交点の位置、わずかな太さや深さ──それらが魔力の流れに微妙に影響を及ぼす。結果、出力の安定性に差が生まれるのじゃ」


 


 そこで教授はレンを見やった。


「レン君は、術式構造を理解した上で刻んでおる。流れを意識して刻むことで、自然とわずかな誤差も減るのじゃ。理解して刻む者と、形だけをなぞる者──積み重ねの差が現れたのじゃろう。」


 


 生徒たちは静かに納得の表情を浮かべた。


 


(──積み重ねた理解が、こうして形になる)


 レンは内心で静かに呟いた。

 積み重ねは、これからもまだ続いていく──。

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