第6話 村に招かれて 〜異世界文化との初交流〜
村の入り口でのやりとりから、蓮はゆっくりと村人たちに案内されていた。
驚きと警戒はあったものの、敵意は感じない。
彼らは蓮の様子を注意深く観察しながらも、柔らかな表情を崩さずにいる。
その道すがら、再びクロエの端末が小さく発声する。
《出力開始》
『遠くから来た。旅、している。』
蓮が無理に説明を加えるよりも、今はこれだけで十分だった。
村人たちは軽く頷き合い、深く詮索しようとはしなかった。
(こういう世界観なら、変に込み入った説明をするより、余計なことは言わない方がいいな)
蓮は内心でそう判断していた。
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村の中央には広場のような空間があり、その奥には一際立派な建物が建っていた。
案内役の中年男性が中へと促す。
『長。ここ。』
おそらく村のまとめ役なのだろう。
中に入ると、落ち着いた雰囲気の年配の男性が静かに蓮を迎えた。
老人はしばし蓮を観察した後、ゆっくりと口を開く。
《補助翻訳:「ようこそ。我らの村へ」》
蓮は軽く頭を下げた。
「ありがとう」
もちろん日本語だが、すかさずクロエが短く現地語で代弁する。
『感謝。』
老人はにこやかに頷き、続けて話しかけてくる。
内容は複雑でまだ完全に把握はできないが、雰囲気から歓迎の意思が伝わってくる。
(まずは信頼を得ることだ。余計なことは焦らず、だな)
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その後、簡単な食事が振る舞われた。
質素ではあるが、野菜や果実、焼いた魚を中心にした食卓だった。
「……ありがたい」
慎重に味を確かめつつも、素材の新鮮さに蓮は素直に感心する。
もちろん、ここで栄養価や成分を分析する余裕などない。
今は純粋に、生き延びるための現地適応が最優先だった。
クロエは端末内で静かに食材名や語彙データを記録し続けている。
村人たちが食材の名を口にするたび、AIは学習データを積み上げていく。
《新規単語登録:作物名、調理名、基本名詞群》
(そうそう、お前はそうやって黙々と成長してくれ)
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夜になり、簡易な寝床も用意された。
蓮は礼を述べると、ゆっくりと横になる。
静かな村の夜。
遠くの星空には、見慣れぬ星々がまたたいている。
「……星の配置もまるで違う。
もしかして――本当に異世界なのか?」
クロエの端末は静かに充電スタンドに置かれ、再び省電力モードへと入っていった。