第59話 教授への確認 〜術式解釈の検証〜
翌朝。
レンは朝早く、専門課程の担当であるアスター教授の研究室を訪ねていた。
「朝早くからどうしたんじゃ?」
アスター教授は紅茶を片手に微笑みながらレンを迎え入れる。
その声音には少しだけ期待混じりの響きがあった。
「教授、昨日の実習で製作した光晶灯の術式について考察してみました。自分の理解が正しいのか、確認をお願いしたくて」
「ほう……光晶灯の術式とな? なかなか熱心じゃのう」
レンは持参したホログラム投影装置を起動し、術式の構造を映し出した。
昨日作成した光晶灯の術式だ。
「魔石から魔力を受け取り、術式に沿って流れを整え、最終的に光の現象が発生する──構造はこのようになっていると理解しました。」
「うむ、そこまでは正しい。続けよ」
レンは術式の線を指でなぞりながら続ける。
「ですが……魔法の授業では、呪文に魔力を乗せて発動させると学びました。言葉という音が魔法現象を起こす引き金になると」
「うむ、それが呪文魔法の基本じゃ」
「しかし魔道具には音を発する仕組みはありません。それでも魔法現象は起きている。となれば──術式の中のどこが”命令”として働いているのか、と考えました」
さらにレンはもう一枚のホログラムを重ねる。
光魔法の呪文構造を要素ごとに整理したモデルだった。
「呪文では起動句・対象指定・現象命令・安定化要素に分類されます。術式にも同様の要素があるのではと考えました」
「ふむ……なるほどのう」
レンは術式の出力部分を示す。
「この部分──魔力が流れを整え、集中させる出力部──ここが呪文における現象命令に相当するのではないかと考えました」
アスター教授はホログラムを静かに見つめ、少し口元を緩めた。
「……ここまで独力で辿り着いたとはのう」
教授は紅茶を置き、ゆったりとした口調で続けた。
「光晶灯の術式構造はすでに体系化された設計理論が存在しておる。術式設計を学ぶ過程で皆が学ぶ知識じゃが……おぬしはまだそれを正式に学んでおらんはずじゃ」
「はい。ですので、確認したかったのです」
「うむ、筋は通っておる。おぬしの考察は正しい理解に辿り着いておる。この出力部は、まさに現象命令部に相当しておる」
レンは小さく息を吐いた。少なくとも間違った方向ではなかったことに安堵する。
「おぬし、なかなか面白い才を持っておるのう。……理屈から術式を読み解く学生は、実のところあまりおらんのじゃよ。多くは教えられた通りに覚えるだけで満足してしまうからの」
アスター教授の目には、興味と期待が混じり始めていた。
この学生はただ器用なだけではなく、理論を根本から理解しようとする異質さがあった。
「よいぞ、レン君。今後も何か気づいたら、遠慮なく相談に来るがよい。おぬしのような学生は、わしも話していて楽しいからのう」
「ありがとうございます、教授」
こうして、レンの探究はまた一歩先へ進んだ。
術式の奥に潜む仕組みが、少しずつ輪郭を現し始めている──。




