第58話 術式考察 〜構造比較〜
実習を終えたレンは、寮の自室に戻るなり机に向かった。
完成させた光晶灯の術式設計図をホログラムに投影し、じっと見つめる。
(さて──整理してみるか)
『術式構造の再解析を開始します』
クロエの冷静な音声が響く。
目の前に浮かぶ術式は、魔石から魔力を受け取り、特定の流れで整えて光を発生させる仕組みだ。
魔力供給路、安定化回路、出力制御──構造自体は理にかなっている。
実際に完成した光晶灯は安定して灯っていた。
(ここから魔力が供給され、回路を流れ、最終的に出力部で光の現象が生まれる……構造的には理解できる)
レンは術式の線を指でなぞりながら、順を追って確認していく。
(しかし──魔法の現象を起こすには、本来”音”が必要だったはずだ)
基礎課程で学んだ通り、魔法は言葉に魔力を乗せて発動するもの。
だが、魔道具には音を発する仕組みが存在しない。
それにも関わらず、確実に魔法現象が発動している。
(この術式の中に、音の代わりになる何かが存在する……はずだ)
『基礎課程時に学んだ光魔法の呪文構造を投影します』
クロエの補助により、今度は同じ光を発生させる呪文の構造図がホログラムに重ねられた。
音声は当然可視化できないが、魔法学では呪文構文の文法モデルが理論的に整理されている。
呪文は【起動句】【対象指定】【現象命令】【安定化要素】といったパーツに分類される。
(ふむ……呪文は声で命令を伝えている。だが術式は物理的構造でそれを表現している、と考えれば筋は通る)
術式回路をじっと睨みながら、レンは思考を巡らせる。
(ならば、この回路の中で現象命令に該当するのは──)
出力端末付近の複雑な刻印パターンに、自然と視線が集まる。
そこは魔力の流路が収束し、特定の流れを作り出している箇所だった。
(……ここが、“命令”を形作っている部分か?)
もちろん、今の段階ではまだ仮説に過ぎない。
だが、呪文における命令句と、術式における出力部の相関性は無視できないように思えた。
(魔法現象を起こす鍵は──この命令構造にある)
レンは静かに息を吐いた。
少しずつではあるが、術式の裏にある「仕組み」が浮かび上がりつつある。
「──明日、教授に相談してみよう。自分の解釈が正しいのか、確認しておきたい。」
『教授面談計画を記録しました』
レンは改めてホログラムの術式を見上げる。
今はまだわからないことだらけだ。だが、この研究の先には──きっと今まで誰も辿り着かなかった答えがあるはずだった。




