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第54話 閑話 〜王都・魔道具街散策〜

 基礎課程を修了し、専門課程が始まるまでの短い休暇。


 レンは王都の中心部、《魔道具街》と呼ばれる一角を訪れていた。石畳の大通り沿いに、大小さまざまな魔道具店が軒を連ねている。煌びやかな看板に吊るされた魔道具の模型、そして漂う微かな魔力の気配。


「……なるほど。これはちょっとした技術の宝庫だな」


 店先には、自動点火式のランプがぶら下がっていた。魔力石を使った簡易照明で、一定の魔力量を与えるとゆっくりと点灯する仕組みらしい。


 村では見かけなかった光景だ。そもそも村では、火は自分で起こすのが当たり前だった。魔法で火種を出すことはできても、火加減や温度調整となると魔法では難しく、結局は人の手で鍋を見張る必要があった。


 だがここでは、魔法と技術を組み合わせた「道具」として、それを自動で行うものもある。


『この世界の魔道具は、現代科学における“電化製品”のような存在でしょうか』


「そうだな……けど、決定的に違うのは、全部“手作り”ってことか」


 クロエの言葉に頷きながら、レンは道具の精度や加工方法を観察する。


 この世界では、魔道具は一部の職人が素材を選び、魔力回路を刻み、呪文を織り込み、ひとつずつ作り上げる。大量生産などという概念は存在せず、ゆえに魔道具はどれも高価だ。


 それでも王都には、需要がある。


 貴族や商人、金に余裕のある者たちは、日々の生活を少しでも快適にするために、これらの魔道具を買い求めているのだ。


「……村じゃ考えられないな、こんな贅沢は」


 かつて身を寄せていた村では、魔道具を持っている家などほとんどなかった。少量の水なら魔法で出すこともできたが、水汲みは基本的に井戸を使った。魔法で炊事や洗濯をまかなうには、魔力の消耗が大きすぎだからだ。


 火を起こすのも魔法で火種は作れるが、火加減の調整は難しく、薪をくべながらの作業になる。鍋にかける火は結局、炉の管理に頼ることが多かった。


 衣類の洗濯も魔法で水を出し、泡立てることくらいはできても、最終的には洗濯板でこするのが一般的。干すのも畳むのも、すべて人の手。


 日が暮れれば、灯りは油と芯を使ったランプが主流だ。ただ、村の集会所や裕福な家には、かろうじて《灯光石》と呼ばれる小型の魔石が使われていることもあった。それでも光量は弱く、読書には向かない。


 つまり村の暮らしは、魔法があってもすべてが便利というわけではなかった。魔法はあくまで「ちょっと手助けできる力」にすぎず、日常の大半は人の手で営まれていたのだ。


『この街は、この世界の“文明の最先端”なのですね』


「そうだな。けど逆に言えば、ここにあるのが限界ってことだ」


 魔道具街を歩きながら、レンはふと思う。


 この世界の魔道具は、実用性はあるが、理論が欠けている。ほとんどが経験則と伝承に基づいた職人の勘に頼っており、再現性や改良性に乏しい。魔力回路の設計や呪文の組み込みも、精密とは言い難い。


 それでも、成り立っているのは魔力という存在があるからだ。だがその「仕組み」を突き詰めていくならば、もっと良くできる──レンはそう信じていた。


「……いずれ、俺も“魔道具”を作る日が来るか」


 技術で、魔法を制御する。

 理論で、奇跡を日常に落とし込む。


 それは、この世界でしかできない挑戦だった。


 レンは視線を上げ、街の奥にある大きな専門店の扉を押した。

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