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第5話 初めての接触 〜慎重なファーストコンタクト〜

クロエの音声記録が始まってから数日。

村の近くに張っていた隠れ家から、蓮はじっと観察を続けていた。


「収録時間は?」


《累計35時間24分。学習データ蓄積中です》


「そろそろ……初歩ぐらいは話せるか?」


クロエの演算は省電力ながら地道に続いていた。

その結果、頻出する挨拶や名乗り程度のパターンなら音声出力が可能になりつつある。


《挨拶・名乗り・簡単な返答の出力が可能です》


「よし。じゃあ、お前が話せ。俺の発音じゃ通じる気がしないからな」


《了解しました。音声出力準備完了》


蓮は深く息を吐いた。


「……さて、いよいよだな」


**


川沿いの小道を進むと、村の入り口が見えてきた。

簡素な門の前で薪を運ぶ若者が一人、荷物を整理している。


蓮は慎重に姿を現した。

両手を広げ、武器を持たぬことを示しながらゆっくり歩み寄る。

若者は驚き、身構えたが、すぐに冷静さを取り戻し、じっと蓮を観察している。


沈黙を破ったのは、クロエの端末だった。


《音声出力開始》


クロエから、ぎこちない現地語の音声が流れる。


『ナーカ。私。旅の人。名。レェン。』


若者は目を丸くした後、ゆっくりと蓮を見つめ返す。


「……レェン?」


「そう。レェン」


蓮は微笑み、頷きながら自分の名前を繰り返した。


やがて若者は周囲に声をかけ、何人かの村人たちが現れた。

彼らも最初は警戒しつつ、蓮の姿を観察している。

ただ、その表情には好奇心が混じっていた。


《補助翻訳:おそらく「どこから来た?」「何者?」に相当する質問》


「今の段階じゃ細かい説明は無理だな……クロエ、簡単にまとめて」


《了解しました》


『私。遠く。来た。一人。』


村人たちは顔を見合わせ、小さく頷き合った。

少し安心したのか、中年の男性が一歩前に出た。


ここで蓮は、自ら次の言葉を選ぶ。

身振りで村の方を指し、クロエに低く指示を出す。


「村……入っていいか? 翻訳頼む」


《出力:》


『村。入る。良い?』


たどたどしい言葉だったが、意味は通じたらしい。

中年男性はわずかに驚いた表情を見せた後、ゆっくりとうなずいた。


蓮は深く頭を下げ、柔らかく微笑んだ。


「ありがとう」


もちろん日本語だが、クロエがすかさず現地語で短く挨拶を代行する。


『感謝。』


こうして白石蓮は、ついに異世界の住民たちと最初の接触を果たしたのだった。


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