第49話 仮説の萌芽 〜古代文字と呪文の関係〜
図書館の一角で、レンはクロエと並んで黙々と資料を読み込んでいた。
(……やっぱり、あの言葉が気になる)
──《人の声は、精霊に届く》
前回読んだ伝記に記されていたその一文が、ずっと頭から離れなかった。
もしも人の「声」が精霊に届いていたのなら──
それはつまり、「言葉」で精霊に命令していたということではないか?
(今までは“祈り”という形でしか伝わってこなかった。でも、実際には……)
レンは数冊の文献を交互に読みながら、静かに呟く。
「……やっぱり、言語だよ。古代人は“言葉”で精霊とやり取りしてたんだ」
クロエが補足する。
《確認された資料においても、“精霊語”または“神代言語”とされる記録が散見されます。現代においては解読不可能な部分も多いようですが》
「それって……まさか──」
レンはふと、昨日の訓練で感じた違和感を思い出す。
(呪文の構造……属性、形、規模、動作。どれも“命令文”のようだった)
そこで、ひとつの仮説が浮かぶ。
「……もしかして、現代の呪文って、その“古代の言語”のなれの果てなんじゃないか?」
《その可能性はあります。呪文の一部には、音韻構造が古代文献と一致するものが複数確認されています》
「じゃあつまり、俺たちが覚えてる呪文は、精霊に向けて書かれた“命令文”の残骸……」
呪文は意味もわからず唱えるものになっているが、
元は意味のある“言葉”だったのではないか──
・呪文が一音違うだけで暴走するのは、構文エラーと同じ
・意味がわからなくても動作するのは、構文の核がまだ残っているから
・精霊が“受信側”だったなら、その命令に従って動いていた可能性がある
(命令を出す側と、命令を受ける側がいた……魔法は、そんなやりとりの痕跡だった?)
ぞくりとする感覚とともに、レンは静かに立ち上がる。
「クロエ、古代言語と現代呪文の構文比較。できる範囲で照合してもらえる?」
《了解しました。解析開始──現在、音韻構造一致率42.3%。》
《ただし残りの58%は未知。現在の呪文学でも未解明領域となっています》
レンは小さく息を吐いた。
今の時点では仮説の域を出ない。だが、確信めいた感覚があった。
(つまり、この命令文の構造を解き明かせば、より精密に魔法を制御できる可能性がある……!)
精霊と命令文――
魔法理論の核心に、静かにレンは手を伸ばし始めていた。
(……この先、精霊に関する文献も調べてみよう)
ゆっくりとまぶたを閉じ、レンは深い眠りに落ちていった。
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