第48話 静かな夜の思索 〜古代と現代の矛盾〜
寮の部屋に戻ったレンは、制服を脱ぐのも忘れたままベッドに倒れ込んでいた。
天井を見上げながら、先ほどまでいた図書館の静謐な空気が、まるでまだ鼻先に残っているかのようだった。
(……かつては精霊がいて、精霊たちが“現象”を起こしていた……)
今日、クロエと共に探し出した一冊の古びた伝記──そこには、火を灯し、水を湧かせ、風を吹かせ、大地を豊かにする存在として“精霊”が語られていた。
人の願いに応じて現象を起こしていた、というのだ。
(じゃあ……その時代の人間たちは、自分の力では魔法を使えなかったのか?)
眉間に皺を寄せながら、レンは思考の糸をたぐり寄せる。
(でも、それはおかしい。ラネアが教えてくれた教会の歴史でも、種としての“人”が変わったなんて記録はなかった。古代人も、俺たちと同じ“人間”のはずだ)
肉体的な構造が変わっていないのであれば、魔力の本質──魔力を持つ器官や構造も、大きくは違わないはず。
(だったら、なぜ古代人は魔法を“使っていない”ように記されていたんだ?)
精霊の力を“借りていた”という表現ばかりで、魔法を“使っていた”という記述は一切ない。それが、レンにはどうしても引っかかっていた。
(そもそも今日読んだ本も、どこか曖昧だった。まるで神話や伝承のような、史実かどうかははっきりしない記録だった)
けれど、そこに記されていた文の一節──
《人の声は、精霊に届く》
その言葉だけが、レンの心に残り続けていた。
(……やっぱり、呪文って“言葉”の命令なんだ)
もしも、呪文の原点が古代文字──精霊に語りかける“言葉”だったとしたら?
魔法という現象は、かつては精霊との“対話”によって起きていたのではないか?
(じゃあ今の魔法は……誰に命令してる?)
その問いは、今日の複合詠唱訓練でも浮かんだ疑問と繋がっていく。
現代の魔法は、まるでプログラムのように構文化され、誰かに命令を出して現象を発動させる。
だが──その“誰か”が、いったいどこにいるのか。
(精霊がいた時代、人は願いを届けるだけで良かった。
でも今は、人自身が構文を組み立て、魔力を通して“発動させる”)
まるで、“精霊”という中間者が消えた世界に、仕組みだけが残されたかのようだ。
(精霊の存在と、魔法の発動。その関係は、今とは全く違っていたんじゃないか……?)
頭の中で浮かんでは消える仮説たち。それらを無理に整理することもせず、レンはただ黙って、考えるままに任せた。
(……明日、もう少し調べてみよう)
この世界の魔法が、どう成り立っているのか。
自分はどこまで、それを理解できるのか。
ゆっくりと目を閉じる。学園の夜は静かに、深く、時を刻んでいく。
──やがて、遠い記憶の地層を掘り当てる日が来るとも知らずに。
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