第43話 魔力制御訓練 〜わずかな揺らぎ〜
魔力の基礎訓練が進むにつれて、教室の空気にも徐々に余裕が生まれてきた。
最初は緊張や戸惑いに満ちていた生徒たちも、いまでは水晶玉への魔力流し込みに慣れつつあり、小さな成功に笑顔を見せる余裕すら生まれていた。
教室のあちこちで、水晶玉が淡く光を帯びる様子が見られ、その度に歓声やささやきが上がる。
そんな中、教師が新たな指示を出した。
「さて──次は、魔力を“安定して流し続ける”訓練です」
教壇の上には、先ほどとは少し異なる構造の水晶玉が置かれていた。
内部に薄い層が幾重にも組み込まれており、そこを通る魔力の“揺らぎ”を可視化するのだという。
「この水晶は、魔力の乱れを色の揺れとして示すようになっています。魔力の流れが不安定なほど、色は激しく揺れ、逆に安定していれば、一定のまま静かに保たれます」
教師は水晶に手をかざすと、淡い青色が穏やかに光り、揺れもせず静止していた。
「皆さん、自分の魔力の“揺らぎ”に意識を向けてみましょう。流すことはできても、“一定に保つ”のはまた別の技術です。呼吸や心の動きにも左右される、繊細な訓練ですよ」
(揺らぎ……か)
レンは目の前の水晶を見つめながら、静かに手をかざした。
昨日感じた魔力の流れをもう一度思い出す。
自分の中にある源泉から、細く、静かに流れる糸のように──
──ぽうっ──
水晶が淡い青白い光を放った。
だが、その光は微かにまたたき、脈のように揺れている。
《レン様、魔力供給の安定性がまだ不十分です。供給量にわずかな波が発生しています。おそらく、呼吸や集中力の揺れが反映されています》
クロエの落ち着いた声が内側に響く。
(やっぱり……“流し続ける”って簡単じゃないんだ)
(でも、これも一つの基礎なんだよな……)
レンは一度目を閉じて、呼吸を整えた。
外の音を遠ざけ、意識を一点に集中する。
頭の中で、魔力の流れを“糸”として思い描いた。
一本の、均一な太さの糸が、決して切れず、揺れずに水晶へと続いていく──そんな明確なイメージを。
少しずつ、心が静まり、魔力の波が穏やかに整っていく。
水晶の光が──ふっと、揺れを止めた。
「……!」
驚きに思わず息を呑む。
教師がそっと背後に立ち、にこりと笑んだ。
「良い流れです。君は感覚のつかみ方が柔軟だ。
“魔力の声を聴く”ことができる子は、成長が早い傾向がありますよ」
「……ありがとうございます」
レンは素直に頭を下げながらも、胸の奥にまだ消えない違和感を抱えていた。
(でも……なぜなんだろう)
(“魔力を流す”“込める”って言葉自体に、何か引っかかる……)
(感覚的にはわかるけど、仕組みがまだ霧の中にある気がする)
それは、呪文の精度や魔力量とは別の──もっと根本的な問いのように思えた。
《レン様、もしご希望であれば、魔力制御パターンのデータから新たな解析モデルを構築可能です。
数値による“揺らぎ”の最小化アルゴリズムを提案しましょうか》
(うん、お願い。頼りにしてるよ、クロエ)
彼は、ふっと息を吐いて、水晶から手を下ろした。
水晶の光は消えていたが、訓練を通して得た手応えは、確かに胸に残っている。
──けれど、まだ終わりではない。
どこかに隠れた“本当の鍵”がある──そんな予感がレンの中に残っていた。
魔法とは何か。
魔力とは何か。
この世界における“法則”は、自分が思っている以上に複雑で、そして深いのかもしれない。
そしてこの小さな違和感は、やがて彼を、誰も気づかなかった領域へと導くことになる──
そのことを、今のレンはまだ知らない。
おはようございます。
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