第40話 初めての食堂〜はじめての朝食〜
翌朝、レンはふと目を覚ました。
窓の外はまだ淡く、東の空にほんのり朝焼けが滲んでいる。鳥の声と共に、学園の新しい一日が始まりかけていた。
「……寝すぎたか?」
ベッドの上で軽く身を起こすと、体がずっしりと重かった。
前日の入学式と初授業で、心も体もすっかり疲れていたらしい。夕食も食べずに制服のまま眠ってしまっていた。
「……お腹すいたな。」
キュルル、と正直すぎる腹の音に、レンは思わず苦笑した。
慣れない場所での生活。まずは食べることからだと、自分に言い聞かせる。
制服の襟元を整え、軽く顔を洗ってから部屋を出た。
廊下はまだ静かで、ほのかに焼きたてパンの香ばしい匂いが漂ってくる。
*
学園寮の食堂は、想像していたよりもずっと広く、美しかった。
天井が高く、光を通す魔法窓からは、やわらかな朝の光が差し込んでいる。天井近くをゆるやかに舞う小鳥の幻影が、空間に穏やかな魔力を流していた。
壁際に設置された長い配膳台は、魔法で自動稼働しており、スープの器がふわりと浮かんでは所定の場所に並べられていく。トレイを持った生徒たちがその前に並び、朝食を受け取っていた。
「──あっ、昨日の兄ちゃんだ!」
不意に声がかかり、レンは振り向いた。
そこにいたのは、小柄で快活そうな少年。茶色のくせ毛に、くりっとした瞳が印象的だ。
「僕、同じクラスだったんだよ! 覚えてる?」
「ああ……うん。前の方にいたよね。」
「そうそう! ねえ、一緒に食べようよ!」
少年は当然のようにレンの腕を引きながら、並んで配膳台に向かった。
その距離感の近さに戸惑いつつも、どこか懐かしい安心感を覚える。
スープはとろみのある野菜ポタージュ、パンは数種類から選べるようになっていた。
魔法仕掛けのトングが、レンの選んだ全粒粉の丸パンをそっと皿に載せてくれる。
「……便利すぎる。」
思わず漏れた声に、少年がくすりと笑った。
「最初はびっくりするよね。でもすぐ慣れるよ!」
二人で窓際の席に腰を下ろすと、少年はスープをすくいながら嬉しそうに言った。
「昨日の夕飯もすごかったんだよ。ロースト肉と、なんかね、光るゼリーも出た!」
「……まさか本当に魔法で光ってたとか?」
「うん! びっくりしたけど甘くておいしかった!」
レンは苦笑しながらスープに口をつけた。
野菜の甘みと優しい塩気が体に染みる。
「……おいしいな。」
素直な感想に、少年はうれしそうににこにこしていた。
「ね、そうでしょ!」
少しずつ食べ進めながら、レンは周囲の賑やかな空気に耳を傾けた。
生徒たちは年齢も種族も様々で、制服だけが共通点だ。
話し声、笑い声、スプーンの音──少しずつ、この空間にも馴染めそうな気がしてきた。
「ところで……名前、聞いてもいい?」
「うん、僕はミール。よろしくね、兄ちゃん!」
「レンだ。よろしく、ミール。」
──こうして、学園生活二日目の朝は、小さな友達と共に始まった。
食後、二人は並んで教室へ向かって歩き出した。
学園の石畳の道に、朝の光が美しく反射していた。
今日もまた、新しい授業と、まだ知らない出会いが待っている。




