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第4話 村との遭遇 〜AI音声学習計画スタート〜

草原を越えた先に、小さな村が見えた。


レンは小高い丘の陰に身を潜めながら、クロエの望遠機能を使って村を観察する。質素な木造の家屋が十数軒、中央には井戸と広場のような空間。家畜の姿や畑も見え、穏やかに暮らす人々の姿があった。


(文明レベルは……中世後期あたりか?)


舗装道路も機械設備も見当たらない。村人の服装も自然素材中心で、革と布を継ぎ合わせたようなシンプルなものだった。木を組んだ柵や小屋、煮炊きの煙があがる屋外かまどなどが目に入る。


「まさか……本当に異世界に来たのか?」


レンは地面に腰を下ろし、膝にクロエを置いた。


「クロエ、村人たちの会話を拾えるか?」


《申し訳ありません、主人。現在の受音機構では遠距離音声の収集は困難です。受信支援装置が必要です》


「集音器を作るにも、ここじゃ材料が限られる。できるとしたら……音導管か!」


思いついたのは、かつての理科実験。“糸電話”の原理だ。音は振動として管を伝う。木や皮、ツルを使えば、簡易的な音導管として再現できるかもしれない。


さっそくレンは材料集めに動いた。湿った地面に生える丈夫なツル草、空洞のある枯れ枝、そして昨夜仕留めた小動物のなめし皮。必要最低限だが、試す価値はある。


(素材の質は低いが、やるしかない)


ツル草を細く裂いてロープ状にし、ナイフで枝にくぼみを彫ってドラム型の受音器を形成。皮は水で戻して柔らかくし、振動膜として木の器の開口部に張る。皮の中心に小さな穴を開けてツルの端を通し、縫い合わせるように固定。


もう片方のツルはクロエの音声入力部に接続する。ツルが音の振動を運び、皮が微細な空気振動を伝えてくれれば、音の一部が拾える可能性がある。


「……クロエ、これで拾えるか?」


《接続部確認。音波振動、微弱ながら伝達開始。信号解析に入ります》


皮膜がかすかに震えた。ツルを通じて伝わるわずかな音が、クロエへと届く。


しばらくして──クロエの画面にノイズ混じりの波形が表示された。


《村人の会話の一部を取得。内容は断片的ながら、収音に成功しました》


子どもたちのはしゃぐ声、年配者らしき人物の低い語り口、料理に関するやり取りが、途切れ途切れに届く。


「……よし、やっぱり使えるな」


ノイズは多いが、完全な沈黙よりはずっと良い。


「クロエ。音声記録機能は使えるな?」


《はい。録音およびローカル記録は可能です》


「なら、集落の会話を可能な限り収集してくれ。サンプルデータが揃えば、お前の言語処理アルゴリズムでも何らかの法則抽出はできるはずだ」


《了解しました。音声学習モードを起動します。対象音声の収集を開始します》


クロエの画面に、収録時間カウンターが表示される。


【収集中:00時間00分】


「しばらくは録るだけでいい。解析は、データが溜まってからじっくりやればいい」


未知言語の解析には時間がかかる。だが、人間が一から学ぶよりは遥かに効率的だ。


「これで、いずれ言葉の壁も越えられる」


森の陰でレンは静かに笑った。


今はまだ、この村の誰とも会話できない。だが、それもいずれ過去の話になる──

そう確信していた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

今回の話では、レンが村人の会話を“ただ聞く”のではなく、“聞くために工夫して道具を作る”という流れを新たに追加しました。


異世界という未知の環境で、手持ちの技術と限られた素材を使って問題を解決しようとする──

そんなレンらしさを少しでも感じていただけたら嬉しいです。


音を伝える「音導管」やクロエの音声解析機能なども、今後の展開にゆるやかに繋がっていく予定です。

じわじわと、だけど確実に前に進んでいくレンの姿を、これからも見守っていただけたら幸いです。


それでは、次回もどうぞよろしくお願いします。

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