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第39話 寮生活、始まる 〜新たな日常への一歩〜

 授業を終えたレンは、寮の自室に戻ってきていた。

これからしばらくは、この学園寮での生活が続くことになる。


「ふぅ……なんとか初日を乗り切ったな」


部屋は広くはないが、一人で過ごすには十分だ。

机と椅子、衣類収納棚、簡易な魔道具式のランプ、そしてベッド。

無駄のない設えだが、殺風景すぎることもなく、整った空間に心が落ち着く。


窓の外には小さな中庭が見え、街灯代わりの魔灯がゆらゆらと灯っていた。

王都の片隅にあるとは思えないほど静かな夜だ。


《初日の授業内容、及び生徒間文化差情報──整理済みです》


「頼りにしてるぞ、クロエ」


耳元のイヤーデバイスから流れるクロエの声に、レンは小さく頷いた。

手元の端末には、今日の授業内容や使用された専門用語の一覧、教師の話し方の傾向、さらには他の生徒たちの反応や空気感まで、驚くほど詳細なメモがまとめられている。


「……助かるよ、こういうの」


クロエがいてくれるおかげで、見知らぬ環境でも混乱せずに済んでいる――レンはそう実感していた。


今日の授業は、彼にとってなかなか刺激的だった。

とりわけ印象に残ったのは、「魔法発動には“魔力集中”と“呪文への魔力付与”という二段階がある」という基礎理論の講義だ。


(今まで自分は──まず魔力を指先に集中させて火種を作り、そのうえで呪文を唱えていた。無意識だったけど、あれが“出力位置形成”と“命令付与”ってやつだったのか)


講師はそれを「意識の二重化」と呼んでいた。魔法を発動する際、集中すべきは魔力の流れだけでなく、それをどのように“意味づけるか”だという。


(呪文に魔力を“乗せる”っていうのは、単に言葉を発するんじゃなくて──魔力と情報を同期させる、命令信号みたいなもんなんだな)


まるで電気回路に似ている。

レンの頭には、前の世界で学んだ物理や工学の知識が自然と浮かんでくる。


《現段階では、魔力集中工程と命令信号付与工程の相関データは整理中です。引き続き観察・収集を行います》


「頼んだぞ、クロエ。俺たちの課題はまだまだ山積みだな」


苦笑まじりにそう呟きながら、レンはベッドの上に倒れ込んだ。

久しぶりの集団授業、慣れない寮生活の初日――心身の疲労がどっと押し寄せてくる。


けれど、心のどこかでは確かな興奮も感じていた。

新しい理論、新しい出会い、新しい日常。

この世界の魔法という未知の領域を、少しずつ“理解”に変えていくことができるという感覚が、彼を支えていた。


「……ひとまず、今日は休もう」


クロエの音声が、穏やかな眠気の中で再び流れる。


《お疲れ様でした。新たな生活適応プラン、更新完了。明日の授業カリキュラムも確認済みです》


「ありがとう……おやすみ、クロエ」


《おやすみなさい、レン》


眠りにつく前、窓の外に浮かぶ星を見上げながら、レンはそっとつぶやいた。


(この世界でも、俺は俺のやり方で――きっと前に進める)


そして、王立魔法学園での新たな日常が、静かに幕を開けたのだった。

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