第38話 基礎課程の授業開始 〜初めての呪文学〜
寮生活の初日が明け、いよいよ学園生活が本格的に始まった。
新入生たちは全員、学園中央棟の講義室に集められていた。
「本日より王立魔法学園 基礎課程の授業を始めます」
壇上に立つのは、柔和な雰囲気の男性教師だった。
呪文学を担当するベルトロ教授である。
「皆さん、すでに生活魔法は使えますね?
ですが、これから先、より高度な魔法を扱うには正しい呪文の使い方を学ばねばなりません」
教授は黒板に簡単な呪文を書き出した。
「魔法は呪文を唱えることで発動します。ただし、正しい発音、抑揚、そして――呪文に魔力を込める必要があります。」
(えっ? 呪文に魔力を込める?)
レンは思わず眉をひそめた。
これまでの魔法練習では、まず魔力を指先などに集中させ、出力位置を作る訓練をしてきた。
呪文はあくまで“発動の合図”くらいにしか考えていなかった。
(……魔力の集中と呪文の発動は、別々の作業じゃなかったのか?)
教授はレンの疑問を先回りするように、ゆっくりと言葉を続けた。
「実際には、魔法発動には大きく分けて二つの段階があります。
一つは、魔力を身体の中で整え、正しい出力位置に集中させること。
そしてもう一つは、呪文によって魔力に命令を与え、現象を発生させることです。」
「皆さんは入学前までの基礎訓練で、この魔力の集中操作をある程度自然に身につけてきました。だからこそ、これまでの簡単な魔法は特に意識しなくても発動できていたわけです。」
「ですが、これから学ぶより高度な魔法では、魔力の集中だけでなく、呪文の正確さと、その言葉に乗せる魔力量も重要になります。
呪文の言葉そのものが、魔力に現象を指示する“命令信号”となるからです。」
レンは小さく息を吐いた。
今まで無意識に行ってきた二つの動作──魔力集中と呪文による命令付与──が、実は別々の役割を持っていたと理解し始める。
(つまり──魔力を出力位置に整え、そこに命令を与える。今まで意識せずやってきた工程を、これからは精密に制御する必要があるわけか)
教授はさらに続けた。
「発音が少しでも違えば、魔法は発動しません。場合によっては暴走の原因にもなります。
だからこれからの授業では、正しく、正確に唱える練習、そして呪文に魔力を込める訓練を繰り返していきます。」
一通りの説明を終え、教授が授業を締めようとしたその時――
「少し質問してもいいでしょうか?」
講義室の静けさの中、レンが静かに手を上げた。
周囲がわずかにざわつく。
「もちろんです。どうぞ」
「……先生、今まで私は特に魔力を意識しなくても魔法が発動していました。
ですが今日、“魔力を呪文に込めないと魔法は発動しない”と説明されました。
なら、今まで私はどうやって魔法を発動させていたのでしょうか?」
教授はふっと優しく微笑む。
「良い着眼点です。実のところ、多くの人は幼少期から生活魔法の訓練を通じて、自然と魔力集中の感覚を身につけています。
出力位置に魔力を整え、そこに呪文を乗せるという流れを、無意識に行っているのです。」
「ただし、より強力な魔法では、そうした無意識任せでは足りなくなります。
だからこそ、これからは意識的に両方を精密に制御できるよう訓練する必要があるのです。」
(──無意識だっただけで、今までの魔法発動も二段階の工程を行っていたわけか)
レンは静かに頷き、その新たな事実を心に刻んだ。
《情報記録:魔法発動時の二段階工程──記録完了》
こうして、レンの学園生活は静かに始まったのだった。
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今後も地道に、でも確実に、レンの成長を描いていきますので、
引き続きゆるりと見守っていただけたら嬉しいです!




