第35話 学園入学目前 〜いざ王都へ〜
季節は、ゆっくりと春の気配を帯びてきていた。
柔らかな風が村の畑を撫で、草木の芽吹きが目に見えてわかるようになったある朝。
レンは、ラネアの家の前に立ち、小さな荷車に荷物を積み込んでいた。
「これで荷物は全部ですわね」
ラネアが最後の袋を確認しながら、落ち着いた声でそう言った。
今日はついに、王都へと出発する日だった。
「本当に、ここまでありがとう。君のおかげで、ちゃんと準備できたよ」
「ふふっ、教師の真似事も、なかなか楽しいものですわ」
ラネアは少しだけ照れたように笑う。
レンの異世界での生活を、文字通り“最初から”支えてくれた彼女には、感謝の言葉しかなかった。
読み書き、計算、日常生活のマナー。
そして最低限の魔力操作や、魔法に関する基礎知識まで――。
この村での数ヶ月は、学園生活のための下地作りに費やされていた。
「緊張してる?」
ラネアが、ふと横顔を覗き込むように尋ねる。
「まあ……少しだけ」
レンは正直に答えた。
思えばこの異世界に来てから、何もかもが初めての連続だった。
それでも、こうして誰かの助けを借りながら前に進めている。それが何より嬉しかった。
そのとき、村の小道の先から人の声がして、振り返ると――
「レン、見送りに来たぞ!」
「体に気をつけてな!」
「王都の菓子、送ってよね!」
村長を先頭に、村人たちが笑顔で駆けつけてきた。
レンの胸に、じんわりと温かさが広がっていく。
(……本当に、いい村だった)
この世界で、最初に出会った人たち。
そして、誰よりも自分を受け入れてくれた存在たちだった。
「本当に……ありがとうございました。皆さんのおかげで、ここまで来られました」
深く頭を下げたレンに、村長は静かに頷いた。
「礼などいらんさ。お主が誰であろうと、この村の皆はお主の味方じゃ。
王都でしっかり学んでこい。そして、いつでも帰ってくるといい」
「……はい」
耳元のイヤーデバイスから、クロエの落ち着いた声が響いた。
《王都への移動ルートは安全を確認済み。状況モニタリングは継続します。ご安心ください》
「頼りにしてるよ、クロエ」
荷車は、すでに村を出る準備を終えた行商人の一団に連なって、ゆっくりと動き出す。
土の道を馬車が軋ませるたびに、見慣れた村の景色が少しずつ遠ざかっていった。
夕焼けに包まれる村を背に、レンは静かに拳を握る。
(……いよいよ、次のステージだ)
学園生活――
新たな出会い、新たな知識、新たな試練。
何が待ち受けているのかはわからない。
けれど、心は確かに前を向いていた。
こうしてレンは、村での生活に別れを告げ、新たな冒険の扉を開いたのだった。
村での暮らしも一区切り。
レンはたくさんの人に支えられながら、ついに王都へと旅立ちました。
新しい世界、新しい出会いが、ここから始まります。
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