第30話 魔法言語理論の探求編 〜"呪文学"という未知の学問〜
翌日、レンは早朝から教会の図書室に足を運んでいた。
今はまだ正式な魔法学校に入学していない彼にとって、村で魔法理論に触れられる貴重な場所だった。
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(呪文は構文。ならば、その"構文"を知るには言語体系の理解が必要だ)
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ラネアの話でヒントは掴んだ。
呪文は正しく唱えれば誰でも使えるが、意味は理解していない者も多い。
まるで誰かがあらかじめ設計した「命令文」を借りて使っているような感覚だった。
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クロエが静かに補足する。
《既存魔法体系:記憶式・詠唱式・省略式に分類。
術式構造は階層的命令分岐と推測》
「つまり、呪文の中に細かな命令の積み重ねが含まれてる可能性があるってわけだな」
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レンは書棚の中から、一冊の分厚い「初等呪文理論入門書」を手に取る。
そこには火・水・風・土、それぞれの初歩的な呪文例が並んでいた。
──《アグニ・ルゥム》──
──《アクア・セルビア》──
──《ヴェント・フィーラ》──
──《テラ・モルド》──
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(まるで意味のない音の羅列のようだが……いや、たぶん違う)
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「ラネアさん、これらの呪文って、どういう由来なんです?」
「由来、ですか? それは……古代から伝わる"魔法言語"の一部と言われておりますわ。
詳細は誰も完全には解読できていませんけれど、上級魔法研究者の中には、この"言葉"自体を研究している方々もおられますのよ」
「……なるほど。体系化されているが、誰も中身は解明できていない"ブラックボックス命令群"ってわけだな」
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(ますますプログラム言語みたいだ)
レンの頭の中で、魔法言語がまるで古代文明のAPI仕様書のように映っていた。
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クロエが淡々と補足する。
《既存体系は"世界法則の既定命令群"に相当。
新規命令発見には上位研究者の試行錯誤と膨大な実験が必要と予測》
「つまり、"新たな魔法"を開発するのは、新しい命令文の発見と同じ……」
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ここにきてレンは、魔法の研究がなぜ"呪文学"という専門分野として存在するのかを初めて納得できた。
(俺は……科学者である前に、一人の"魔法言語学者"にならないといけないのかもしれない)
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新たな学びの扉が、静かに開かれ始めていた。
本日もお付き合いいただき、ありがとうございました。
少しずつですが、物語が進んでおります。これからもよろしくお願いいたします。




