第3話 発電チャレンジ 〜クロエ復活計画〜
川のせせらぎを聞きながら、白石蓮はじっと流れを見つめていた。
「水力発電……原理はシンプルだ。問題は、現地調達の素材でどこまで作れるか、だな」
蓮の頭の中で、過去に設計してきた発電システムの構造が次々に浮かんでくる。
もちろん、ここに発電機やコイル線、磁石などという便利な部品は存在しない。
だが、技術者とは与えられた条件で最適解を導き出す生き物だ。
「まずは水車本体。浮力と回転効率を考えると、木材が無難だな」
周囲の木々から加工しやすそうな若木を選び、慎重に切り出していく。
石で作った即席の刃物も、既に手になじんできていた。
「羽根板は……これくらいの角度で十分だろう」
削った木の板を均等に配置し、原始的な水車の形が出来上がっていく。
流れに置いてみると、ゆっくりとだが確実に回転を始めた。
「ここまでは順調、だな」
だが、本題はここからだった。
発電には磁石とコイルが必要だ。
「磁石は……まず天然鉱石の確認からだな」
蓮は川辺に散らばる石を一つ一つ拾い上げ、簡易的な磁性チェックを始めた。
小さな鉄片を吊り下げた即席の振り子が微かに石に引き寄せられる。
「……磁性あり。磁鉄鉱、マグネタイト系か。助かった」
天然の磁石が手に入っただけでも、幸運と言えた。
「次はコイル線……」
こちらはさらに地道な作業が必要だった。
周辺で見つけた銅鉱石らしき鉱物を砕き、粗雑ながら精錬を試みる。
少量ずつ抽出した金属を叩いて伸ばし、細く加工して即席の銅線を作っていく。
工業製品のような均一な線など望むべくもないが、わずかでも電流が生まれれば目的は達成できる。
「さて……ここまで来れば、後は組み立てるだけだ」
組み上げた即席の発電コイルを水車の回転軸に取り付け、導線をクロエ端末の充電ユニットへと繋ぐ。
クロエの端末は、元々ワイヤレス充電にも対応している――事故時の衝撃にも備えた研究用設計が、ここで生きた。
「……頼むぞ」
水車が回り始め、わずかに電流が生まれた。
しばらくすると、クロエの端末がゆっくりと起動を開始する。
《……システム再起動中……》
モニターに淡い光が灯る。
蓮は思わず小さく息を吐き出した。
「……復活、成功だな」
数秒後、クロエの落ち着いた声が静かに響く。
《システム起動完了。正常動作確認済みです》
「お帰り、クロエ」
《お待たせしました。省電力復旧プロトコル、完了しました》
「ようやく少し楽ができる」
もちろん現状の発電量はごく僅か。フル稼働はまだまだ先だ。
それでも、ログの記録や最低限の会話、計算支援程度なら可能になった。
《状況報告を再開しますか?》
「いや、まずは充電優先だ。情報収集は後回しだな」
《了解しました》
クロエの冷静な声は、以前と何も変わらなかった。
けれど蓮には、その応答が妙に頼もしく思えた。
これでようやく――本格的な異世界生活が始められる。