第29話 再構築の始まり 〜魔法は命令体系なのか?〜
土魔法訓練を終えた帰り道、レンは珍しく黙り込んでいた。
今まで積み上げてきた"科学的理解"が、根底から崩れ去った衝撃がまだ抜けきらない。
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「お疲れ様ですわ、レンさん。少し休まれますか?」
ラネアが気遣うように声をかける。
「……いや、大丈夫だよ。ただ、少し考えたくてね」
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("魔法"とは結局なんなのか……)
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火、水、風――
すべての魔法が「存在しないものを生み出す」現象だった。
エネルギー変換ではなく、現実改変。
そして土魔法で、それが決定的になった。
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(でも……そうなると、新たな疑問が浮かぶ)
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「ラネアさん。少し、変なことを聞いてもいいですか?」
「もちろんですわ。なんでもどうぞ」
「魔法を使うとき、なぜ呪文を唱えるんです?」
「え?」
ラネアは一瞬だけ不思議そうな顔を浮かべる。
「それは……魔法の術式を正しく発動させるため、ですわ」
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(やはり……)
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「呪文そのものは、意味がある言葉なんですか? それとも単なる音?」
「意味は……あるといえばありますが、一般的には『定められた形』を正しく唱えることが重要なのですわ。
たとえ意味を理解していなくても、正しく発声すれば魔法は発動しますのよ」
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(……まるでプログラム言語だ)
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コンピュータのコマンド入力のように、正しい構文で命令を送れば動作する。
意味を完全に理解していなくても、文法さえ守れば処理は実行される――それに似ている。
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「呪文は……魔法発動の命令コード、というわけか」
「命令……コード、ですの?」
ラネアは首をかしげたが、レンの目はどこか光を帯びていた。
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クロエが静かに補足する。
《仮説更新:
魔法行使プロセス = 呪文(構文)+イメージ入力(出力指定)+魔力供給(実行リソース)》
「そうだ……!呪文は構文、イメージはパラメーター、魔力は演算エネルギー……!」
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世界を構成する法則そのものに、既に用意された"API"のようなものが存在している。
術者はそれを呼び出し、イメージで細部を指定し、魔力で実行する――
魔法はまるで"世界法則にアクセスする命令体系"そのものなのだ。
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(……まだ全容は見えない。けれど道は続いてる)
科学者レンは新たな「理屈の扉」を開き始めていた。
お読みくださり感謝です。
引き続き、どうぞゆるりとお付き合いいただけたら嬉しいです。




