第19話 火種制御 〜安定化と出力調整〜
ふわりと灯った橙色の火種。
自らの手で生み出した初めての魔法の成果に、レンは小さく息を吐いた。
だが、火はまだ安定していなかった。
わずかに揺らぎ、今にも消えそうな頼りない光だった。
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「……ここからは、火種の維持と安定ですね」
ラネアは優しく微笑んで言葉を重ねた。
「今のは、火を生ませるきっかけができた状態ですわ。
でもね、その火を長く灯してあげるには――火が消えないように、そっと魔力を送り続ける感覚が大切なんですの」
「魔力を送り続ける……」
「ええ。強すぎても、弱すぎても、火は揺れてしまいます。
風が吹いたときに、火を守るように手を添える……そんな気持ちに近いかもしれませんわ」
(……そうか。
火を生ませるのは一瞬の集中。
けれど、それを保つには穏やかに魔力を送り続ける必要がある。
安定した状態を維持するための細かな補給……)
(つまり――火を灯すのはスイッチ。
維持するには微調整しながら熱を供給し続ける……)
レンは自然と科学的思考に移行していた。
これは一種のフィードバック制御に近い。
出力と温度を常に監視し、わずかなズレを補正し続ける作業だ。
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クロエが静かに補足する。
《現状:局所温度 370度。出力変動 ±12%。安定化補助可能》
「クロエ、補助開始。出力微調整をリアルタイムでサポートしてくれ」
《補助制御開始。出力変動 ±3% まで低減》
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すると、火種の揺らぎが目に見えて収まった。
安定した橙色の光が、指先でふわりと揺れている。
「……やっぱりAIの数値制御は頼りになる」
レンは思わず小さく笑った。
(火の発生原理は依然として完全には解明できていないが――
現象を安定させるための制御は、科学の力で補える。
ここに俺の居場所がある)
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ラネアが嬉しそうに拍手を送る。
「本当にお見事ですわ、レンさん。ここまで短期間で制御まで進められる方は滅多にいません」
「……ありがとうございます。でも、ここからが本番です」
レンの表情はすでに次なる課題を見据えていた。
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火種の制御は安定した。
だが、より高温に、より大きく、自在に操れるようになるには――
さらに繊細で高度な制御技術が必要になるだろう。
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科学と魔法が交わる未知の世界――
レンの挑戦は、さらに加速していくのだった。