第18話 火種誕生 〜初成功の瞬間〜
もう一度――いきます」
レンは静かに魔力の流れを整え、ゆっくりと指先へと導いていく。
クロエの補助は最小限。いまは自分の感覚を信じるしかなかった。
**
(魔力の圧縮……いや、流れを細く、一点に収束させる。
その瞬間、熱は生まれるはずだ)
ここ数日間の訓練で、失敗の原因はわかってきた。
安定させようとしすぎていた。
必要なのはほんの短い集中、瞬間的なエネルギーの爆発だった。
**
クロエが静かに状況を告げる。
《流量安定。集中率 18%。微細振動抑制成功》
(……いいぞ)
レンは意識をさらに絞り込んだ。
視界にはただ一点――火が生まれる瞬間だけを思い描く。
(ここだ――!)
**
瞬間、魔力を一気に押し込む。
指先に、じんわりとした熱が急激に集中する感覚が走った。
《局所温度上昇! 発火条件突破!》
**
――ぽっと。
柔らかな橙色の火種が、レンの指先にふわりと灯った。
**
「……っ!」
思わず息を呑んだ。
はじめて、自分の力で生まれた火だった。
ラネアがぱっと顔を輝かせる。
「おめでとうございます、レンさん! ついに成功ですわ!」
クロエも静かに補足する。
《燃焼現象安定確認。火種発生成功》
**
火は小さく、頼りないほどの光だった。
だがその光は、レンにとっては何よりも重みのある証明だった。
「……やっと、できた」
心の底から湧き上がる達成感に、自然と笑みがこぼれる。
**
(未知の理屈。理解できない現象。
だがこうして、現象は確かに起こせた。
ならば――この先も、必ず法則を見つけ出せるはずだ)
科学者の血が、再び静かに燃え上がっていくのを感じていた。