第17話 集中率上昇 〜圧縮限界突破へ〜
「もう一度、いきます」
レンは深呼吸をして、再び魔力を流し始めた。
クロエの補助も徐々に制度が上がり、数値フィードバックは少しずつ安定してきている。
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《流量安定。集中率12%。局所温度上昇継続中》
わずかずつではあるが、確かに熱は集まりつつあった。
しかし、まだ発火には至らない。
(ここから先が、難しい……)
指先に流す魔力の「出口面積」を絞り込む感覚は、少しずつ掴めてきた。
だが狭めようと意識を強めると、今度は流れそのものが不安定になり、分散してしまう。
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(極端に細くすれば良いというわけでもないのか?)
理屈では単純なように見えるが、実際は極めて繊細なバランスが求められている。
クロエが静かに補足する。
《集中率14%。制御安定領域の上限に接近中。微細振動発生》
(振動……? 不安定さの正体はこれか)
細く絞り過ぎると、魔力の流れに「揺らぎ」が生じる。
水道の蛇口を絞りすぎたときの水のブレに似ていた。
(なるほど……"流し続ける"ことが目的じゃない。必要なのは、一瞬の爆発的集中か)
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レンは思考を切り替える。
細く、長く、安定させるのではなく――短く、瞬間的に強く集中させる。
「クロエ、流量補助を一時解除。瞬間集中のみに切り替えて」
《補助切り替え完了。集中圧縮モード起動》
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再び魔力を流す。
だが今度は、指先に集まった魔力を一瞬だけぎゅっと絞り込む感覚に全神経を注いだ。
瞬間――
《局所温度急上昇! 発火条件到達目前》
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しかし――
ぶわっと、魔力の流れが暴れ、今まで感じたことのない反動が走る。
まるで弾かれるように、魔力が逆流してしまった。
「っ――!」
思わず肩で息をする。
だが、その顔に浮かぶのは悔しさではなく、わずかな手応えだった。
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「惜しかったですわね、レンさん」
ラネアが微笑んで声をかける。
「……ええ。でも、なんとなくわかってきました。
一点に魔力を押し込む。その瞬間を正確に作り出せれば、きっと――」
(あと少しだ)
レンは拳をぎゅっと握った。
火種誕生は、もうすぐそこにあった。