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第16話 圧縮突破の糸口 〜感覚と理論の狭間で〜

「レンさん、もう少し力を抜いてみましょうか」


ラネアの穏やかな声が、繰り返される失敗に肩を落とすレンに優しく響いた。


**


(力を抜く……?)


レンは唇を噛む。


(集中しろと言われて集中し、今度は力を抜けと言われる。どっちだよ……)


**


クロエが静かに補足する。


《魔力流路安定。流量一定。集中率5%。依然として圧縮不足。》


(だろうな)


理屈は理解できる。

だが現象が伴わない。


魔力を体内で流すことはできるようになった。

だが、それを「細く絞る」――その具体的な制御法が、どうにも掴めない。


**


(科学では説明できない未知の分野……)


理論的アプローチは、ここではむしろ邪魔になる。

考えれば考えるほど思考は袋小路に陥り、魔力は分散する。


**


《現状、圧縮技術の学習データが不足しています。補助アルゴリズム構築不能。》


クロエのいつもの冷静な報告が、今はどこか頼りなく感じる。


(クロエも無理か……)


科学もAIも役に立たない。

今はただ、己の感覚のみが頼りだった。


**


(圧縮とは……狭めること。流れを細く絞り、一点に集中させる。イメージは……そう、まるで水道の蛇口を絞るように……)


視界の奥に、かつての研究室での高圧噴射実験の記憶が浮かんだ。


――流体を絞れば、噴射圧は上がる。

熱も圧力も、その一点に集中する。


**


「……なるほど、"面積"だ」


思わず小さく呟いた。


今までは"流す"ことばかりに意識を向けすぎていた。

だが重要なのは**「どれだけ狭い範囲に収束させるか」**だったのだ。


**


「クロエ、流量はそのままでいい。流出口イメージを"できるだけ一点"に集中させる補助をかけてくれ」


《補助制御変更。圧縮誘導モード開始。》


クロエがすぐさま対応を切り替える。


**


レンは魔力を腹部から指先へ流す。

ただし今度は、その先端の「出口」を一点に絞る意識を強く持った。


ゆっくりと、だが確実に――

指先の温度が上がり始めた。


《局所温度上昇確認。集中率10%到達。》


**


火はまだ灯らない。

だが今までとは明らかに違う反応を感じ取れた。


ラネアが微笑んだ。


「……いい感覚ですわ、レンさん。その調子です」


「……はい。掴めそうな気がします」


**


未知の現象に悩み、苦しみながらも――

科学者としての探究心が、また一歩前進し始めていた。


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