第15話 魔力圧縮訓練 〜AIが沈黙する瞬間〜
火種を灯す初挑戦は、あっけなく失敗に終わった。
指先は温まるものの、発火には至らない。
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「レンさん、焦らなくて大丈夫ですわ。魔法は感覚が大切ですから」
ラネアは優しく微笑む。
だが、レンの表情は硬いままだった。
「……感覚、ですか」
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科学者としての思考が、自然と頭を支配する。
火がつかないのは、発火に必要なエネルギー密度が不足しているから――そこまではわかる。
(つまり、魔力の流れをもっと局所に集中させればいい。
流量そのものは維持し、出口面積を絞る……理屈は単純だ。だが――)
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《魔力圧縮理論モデル作成不能。人体内部における魔力流路形成の詳細解析は現状不可能です》
クロエの冷静すぎる報告が突き刺さる。
(……だろうな)
未知の法則に支配された魔力。
流せば流れる。だが、それを「細く絞る」とは一体どういう操作なのか――
物理的な管があるわけでも、ポンプ圧力を高められるわけでもない。
理屈があまりに曖昧すぎる。
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「感覚で……集中させる……?」
繰り返し自分に問いかけるように、レンは何度も魔力を流し続けた。
少しずつ、意識を指先へ絞る。
だが、集中するたびに流れはぶれて分散し、熱量も思うように上がらない。
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(科学的に考えれば考えるほど……かえってできなくなる)
レンは無意識に苦笑した。
科学という強みが、ここでは呪縛になっていた。
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クロエが静かに補助報告を続ける。
《流量安定。集中率3%。目標値に未達。》
「……わかってるさ」
圧縮のイメージが掴めない。
指先に集めようと意識すればするほど、魔力は勝手に広がっていく。
(これは……未知の分野だ。科学では説明できない世界……)
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だが、諦める気はなかった。
(だからこそ挑む価値がある)
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「もう一度……やる」
レンは静かに魔力を流し直した。
科学理論の思考を一度脇に置き、ただ集中する――"火が生まれる一点を描く" それだけを考えて。
試行錯誤の訓練は、なおしばらく続いていくのだった。