第14話 火魔法初挑戦 〜最初の失敗〜
「それでは、今日からいよいよ魔法の発動練習に入りましょう」
ラネアの穏やかな声に、レンは緊張と期待の混ざった面持ちで頷いた。
これまでの魔力感知と操作訓練を経て、ついに次の段階に進む。
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「まずは火種発生から始めます。火は生活の中でも最も基本的で、訓練にも適していますわ」
ラネアはゆっくりと手を前に差し出し、魔力を指先に集中させる。
すると、ふわりと柔らかな火の玉が浮かび上がった。
「……やはり、理屈がわからない」
レンは眉をひそめながら、その火種をじっと見つめた。
燃焼は酸素と可燃物があって初めて成り立つはず。
だが、ラネアはただ魔力を流しただけで火を生み出している。
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クロエが淡々と報告する。
《発光体発生確認。局所温度上昇検出。熱反応による微小燃焼現象と推定。》
「やはり魔力が熱エネルギーに変換されている……が、それだけじゃ火にはならない」
レンは内心で理論を組み立て始める。
(空気中の微粒子が着火点になっている? それとも魔力が可燃性物質を直接作り出しているのか?)
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「さあ、レンさんも試してみましょう。魔力を指先に流し、『火を灯す』とイメージしてください」
ラネアの優しい声に従い、レンは呼吸を整えた。
(魔力を流す……火を灯す……)
クロエが補助を開始する。
《魔力循環安定化中。流量制御補助開始。変換誘導準備完了。》
レンは集中し、魔力を腹部から指先へと移動させる。
――しかし、指先に生じたのはわずかな温もりだけだった。
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「……出ない」
「焦らなくて大丈夫ですよ。最初からうまくいく方が珍しいんです」
ラネアは微笑んで励ます。
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レンは何度か試みるが、結果は変わらない。
火が灯るどころか、指先はほんのり温まるだけだった。
クロエが静かに報告する。
《出力不足。熱量変換が燃焼発火条件に達していません。》
(条件……熱量が足りない? あるいは着火物質が不足?)
(やはり、ただ漠然と「火を灯せ」と言われても、俺の脳は納得しきれない。
現象そのものの仕組みを理解しないと、イメージが曖昧になる――)
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ラネアが優しく声をかける。
「大丈夫ですわ、レンさん。こうして少しずつ感覚を掴んでいくものです。焦らず続けましょう」
「……はい。もう少し試してみます」
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こうして、レンの「火魔法」習得は最初の壁にぶつかりながらも、ゆっくりと始まっていくのだった。