第12話 魔力操作訓練 〜初めての流れ〜
「では、今日も始めましょうか」
ラネアの優しい声に、レンは静かに頷いた。
魔力の存在が確認されてから、数日が経っていた。
クロエが魔力循環の検知に成功して以降、訓練内容も少しずつ変わり始めている。
次なる課題は――魔力の操作だ。
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「レンさんの中には、確かに魔力があります。ただ、それを流す感覚を覚えないと魔法は使えません」
「はい。やってみます」
ラネアの説明を受け、レンは呼吸を整えた。
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(意識を、中心へ――)
これまで何度も繰り返してきた動作。
違うのは、今はクロエが常に体内の魔力循環を観測し、フィードバックを与えてくれることだ。
クロエの音声が静かに告げる。
《現在、微弱な循環反応安定中。流動量は低レベルです》
「レンさん、今の感覚を維持したまま、意識を少し広げてみましょう。
魔力の流れを、自分で"押し出す"ように――」
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レンは集中を高める。
腹部の奥にわずかに漂うぬるりとした温かさ。
それを掴もうと意識を伸ばすが、すり抜けてしまう。
(くそ……また逃げる)
《循環反応、不安定。再補正します》
クロエが即座に微調整を行い、数値情報をフィードバックする。
蓄積されたデータが、少しずつクロエの解析精度を高めていた。
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さらに数回、同じ動作を繰り返した後――
「今です、レンさん。少しだけ、流れを押し出して!」
ラネアのタイミングの助言に合わせて、レンは意識を集中させる。
(……行け!)
腹部の内側で何かが「コポン」と弾けるような感覚が走った。
クロエの声がすぐさま反応する。
《体内循環上昇を検出。微弱ですが魔力流動発生を確認しました》
レンは思わず目を開いた。
「……感じた。……少しだけど、流れた気がします」
ラネアは嬉しそうに微笑む。
「ええ、確かに流れましたよ。これが最初の一歩です」
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長い長い感覚訓練の末、ようやくレンは自分の魔力を「動かす」感覚を掴み始めたのだった。