第11話 魔力検知 〜クロエの初成功〜
もう一度やってみましょう」
ラネアの穏やかな声に促され、レンはゆっくりと目を閉じた。
呼吸を整え、意識を体の内側――魔力核と呼ばれる場所へと向ける。
(……感じろ。俺の中に流れているはずの、魔力を――)
だが、やはり何も感じない。
身体の中心は静まり返ったまま、ただ虚無のように広がっていく。
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「大丈夫です。焦らず続けましょう」
ラネアは優しく微笑んで励ましてくれるが、レンの内心は少しずつ重くなっていた。
その横で、クロエは淡々とレンの体内をスキャンし続けていた。
《スキャン開始……検出失敗。》
《エネルギー循環パターン不一致。》
《波長補正試行……失敗。》
《生体信号同期試行……失敗。》
何度も、何度も、失敗の報告が重ねられていく。
(やはり……ダメなのか?)
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別の日の訓練でも状況は変わらなかった。
レンは繰り返し魔力感知の練習を続ける。
だが、自身の魔力を感じ取ることは依然できなかった。
クロエもまた、異なるアルゴリズムを次々と試していた。
《振動共鳴スキャン……失敗。》
《電磁場干渉解析……失敗。》
《波動干渉理論適用……失敗。》
レンの内心にも、少しずつ諦めの色が滲み始める。
(……地球人の俺には、やっぱり魔力は存在しないのかもしれない)
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それでも訓練は続く。
さらに数日が経過したある日――
レンがいつものように集中していたその時、クロエの声が変わった。
《……再解析を行います。》
レンの心臓がわずかに跳ねる。
《これまでの失敗データ全てを統合し、新たな補正アルゴリズムを試行中……》
短い沈黙が続いた。
その間にもレンはひたすら集中し続ける。
そして――
《……未知なるエネルギー循環パターンを検出しました。》
「――!」
クロエが静かに続けた。
《レン様の体内に、他個体と同様の微弱なエネルギー循環を確認しました。
魔力と思われる内部エネルギーが存在しています。》
レンは目を開け、ゆっくりと息を吐いた。
胸の奥にじわりと広がる安堵と高揚感。
(……あったんだ、俺の中にも)
クロエが少し控えめに付け加えた。
《……解析に時間がかかり、申し訳ありません》
レンは小さく笑った。
「いいさ、クロエ。よく頑張った」
ようやく、最初の一歩が踏み出せたのだった。