第10話 魔法訓練 〜異世界の魔法入門〜
僕も……魔法を使ってみたい」
レンの言葉に、村人たちは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。
「魔法を使えない人なんていないさ、レン。魔力は誰にでも流れている」
「じゃあ……教えてくれるますか?」
自分の口から出た敬語の違和感に、レンはわずかに苦笑する。
クロエの翻訳は随分こなれてきたが、敬語表現はまだ微妙におかしい。
だが村人は特に気にした様子もなく、にこにこと頷いた。
「もちろんだとも! でもな、俺たちが教えるより、教会のラネア様に頼んだ方がいいな。子どもたちにも教えてるからさ」
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翌日、レンは村の教会を訪れた。
石造りの質素な建物は、神聖さというより温かな学び舎の雰囲気が漂っている。
中では小さな子どもたちが読み書きや計算の練習をしていた。
この教会は、村の寺子屋の役割も兼ねているらしい。
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「あなたがレンさんですね? はじめまして、私はラネアです」
現れたのは柔らかな微笑みをたたえた神官服の女性だった。
子どもたちの教育から魔法の基礎指導まで、この教会を切り盛りしているらしい。
「……魔法を学びたいのです」
「ええ、もちろんです。最初は皆、初心者ですから」
ラネアは朗らかに微笑み、奥の訓練室へ案内してくれた。
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「さて――まずは、自分の中の魔力を感じる練習から始めましょう」
ラネアはレンの腹部あたりを軽く指さす。
「この辺りに『魔力核』があります。呼吸を整えて、意識を内側へ向けてみてください」
レンは深く息を吸い、目を閉じた。
が――何も感じない。
(……まるで空っぽだ)
何度か試すが、ただ静かな体内の感覚が広がるばかりだった。
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ラネアは優しく微笑んだまま、提案した。
「では、少しだけ私の魔力を流しますね。リラックスしてください」
レンが小さく頷くと、ラネアはそっと手を取る。
すると、じんわりとした温かさが体内に広がっていくような感覚が生まれる。
「……これが、魔力……?」
「ええ、それが魔力の流れです。
今感じているのは、あなたの中を巡っている私の魔力。
これと同じ流れが、あなたの中にも眠っています」
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クロエも何度も内部スキャンを試みていたが――
《……レン様、申し訳ありません。現時点のセンサーでは魔力循環の検出に失敗しました》
(だろうな……魔力という概念自体、地球側にはなかったエネルギー体系だ)
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ラネアは励ますように続けた。
「焦らなくて大丈夫です。何度も繰り返せば、きっと感じ取れるようになりますよ」
レンは静かに頷いた。