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第1話 目覚めはどこかの森で

――耳鳴りがしていた。


どこか遠くで風が吹いているような音。

それは本当に風の音だったのか、それとも脳の奥で響いている幻聴だったのか。

意識の端で、何かがざわついていた。


(……あれ?)


重たく感じるまぶたを、ゆっくりと持ち上げる。

視界に飛び込んできたのは、見慣れない空だった。


白く輝く太陽。どこまでも青く抜けた空。

風に揺れる草のさざめき。湿った大地の、むせるような匂い。


どこだ、ここは。


体を起こすと、目の前には広大な草原が広がっていた。

地平線まで続く緑の海。木々の一本も見当たらない、見知らぬ平野。

空気は妙に澄み渡っていて、不自然なほど静かだった。


「…………」


言葉が出ない。

現実味が、まるでなかった。


──そうだ。さっきまで、俺はオフィスの帰り道にいた。


終電を逃し、コンビニにも寄らずにそのまま職場からの道を歩いていた。

頭の中では、次のプロジェクトの構成案がずっとぐるぐるしていた。


(……そろそろ構造を見直さないと無駄が出るな)


いつものように、何気なくコードの最適化を考えていた。その瞬間だった。


視界の端に、強烈な光。

ヘッドライトの白が、闇を裂いた。


反射的に顔を上げた時には、もう目の前だった。

突進するように迫ってくる大型トラック。


「……っ!」


反応が遅れた。

重たい何かにぶつかるような衝撃、身体が跳ね飛ばされる感覚。

空を舞った一瞬の浮遊感と、耳をつんざくクラクションの音──


──そして、真っ白な世界。


音も光も感覚も、すべてが消えた。

あれが、最後の記憶だった。


(……俺、死んだのか?)


ふと、自分の手を見下ろす。

血もなければ、骨の痛みもない。衣服に傷一つない。


ポケットを探ると、手に馴染んだ端末に指が触れた。

取り出して確認する。薄型のスマートフォンに似た、自作の小型端末。

市販のガジェットではない。完全オリジナル設計の、AIユニット搭載多機能型研究用端末――クロエ。


電源を入れる。画面は正常に起動した。

だが、インジケーターには無情な表示が並ぶ。


【通信圏外】

【位置情報:測位不能】


「……ネットもGPSも死んでるか」


端末の自己診断は正常。受信モジュールにも異常なし。

ということは、今いる場所にはそもそも通信インフラそのものが存在していないということだ。

都市部はおろか、人の気配すらない。


クロエを起動する。


《システム起動完了。正常動作確認済みです》


「クロエ、現状報告。」


《ネットワーク接続不可。衛星捕捉ゼロ。地形照合不能。現在地測位不能です》


「生態系のスキャンは?」


《基本計測は可能ですが、現地情報データベースが存在しないため解析は不可能です》


「要するに、何が何だかわからないってことだな」


《要約すれば、そうなります》


その瞬間、“異世界転移”というあり得ない言葉が脳裏をかすめた。

だが、すぐに打ち消す。


「そんなファンタジーに逃げるのは、現実を放棄した時だ。今は現実的な仮説を積み上げる方が先だ」


未知の孤島か、軍事実験区域か、地球外か――

候補はいくらでもある。だが、決定打がない。


「クロエ、今は省電力優先だ。記録機能だけ継続、センサーは最低限に抑えろ」


《了解しました。ログ記録のみ継続、省電力モードに移行します》


深く息を吐いて、レンは立ち上がった。

ふらつきはない。呼吸も安定している。軽い空腹感だけが、現実感を教えてくれる。


そして歩き出す。


恐怖や焦燥は不思議と感じなかった。

ただ淡々と、冷静に状況を観察し、判断する。


彼はエンジニアだった。

目の前の不確定要素に、理論と実証で挑む職業人。


未知の環境がどれだけ非現実的でも、彼にとって重要なのは、可能性を一つずつ潰していくこと――


初めまして、しずく葉です!

本作は異世界転移×科学×魔法というちょっと変わった組み合わせで描く成長物語です。

異世界に飛ばされた科学者が、魔法をただ"使う"のではなく、理論的に"解き明かす"物語となっています。

ありがちな俺TUEEEではなく、じっくりと成長していく系のお話ですので、のんびりお付き合い頂けたら嬉しいです。


2025年6月13日追記:

第1話の冒頭部分を加筆・修正しました。

レンが異世界に転移する瞬間の描写をより丁寧に描き、読者の方にも入り込みやすくなるよう調整しています。

すでに読んでくださった方も、よければもう一度読んでみてくださいね!

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