『黒魔女』 第三話:吠える背広
『黒魔女』 第三話:吠える背広
港区・汐留。
かつてはビジネスマンたちが忙しなく行き交い、高層ビルに明かりが灯っていたエリアも、今は静かだ。
電通ビルの前の広場。 黒魔女は、ワイヤーで滑るように舞い降りた。
「ここも、静かね……」
冷たい床にブーツの底が触れる。その音が、無人の構内に乾いた音を響かせた。
そのときだった。
「そこの女ァ……」
低い唸り声が反響する。
黒魔女が顔を上げると、暗がりから現れたのは背広を着た犬男。
スーツは破れ、シャツは血と油にまみれていた。歯は犬のように鋭く、目は血走っている。
「よォ……港区女子……俺と遊ばねぇか?」
黒魔女は即座にダガーを抜く。
「犬の癖に、喋るのね」
犬男は笑い、足を地面に叩きつけて猛然と突進してくる。
彼の拳はコンクリの壁をも砕く。 黒魔女は紙一重で避け、ワイヤーを使って間合いを取りつつ、投げナイフで応戦。
しかし、犬男の体は分厚い筋肉に覆われており、投げナイフが刺さっても平然としている。
「俺はなあ……年功序列も、残業も、全部飲み込んできたんだ……!」
「……つまらなそうな人生……」
黒魔女は高く跳躍し、ビルの壁にワイヤーで飛びついた。 そのまま振り子のように回転し、犬男の頭上へ。
「吠えてばかりで、噛みつけないのね」
ダガーが閃き、犬男の首筋を切り裂く。
犬は呻きながらも一歩踏み出すが、次の瞬間、黒魔女のロングソードが振り下ろされた。
その身体は、二歩進んだあと、崩れ落ちた。
静寂が戻る。
黒魔女は血の跡を一瞥し、淡々と背を向けた。
その頭上──高層ビルのアンテナの上。
何かが、翼を広げて飛び去っていく。
「……コウモリ、不潔ね」
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