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第90話 失われていたあの笑顔

 

 あの子供……いや、待てよ、あれは――俺だ。

 いつの記憶(きおく)なんだ?こんなこと、本当にあったのか……?


 ──そうか、君はあの日のことを覚えていたんだな。


 なら、きっと(ほか)にも思い出せることがあるはずだ。


「今のところ、そこにあったのはそれだけだ。さすがに(おく)まで(あさ)るわけにはいかない……」


 ふと、ひとつの考えが浮かんだ。

 静かに、リョウコの部屋を出る。


 この家はあまりにも(ひろ)くて、道に(まよ)ってしまう可能性(かのうせい)もある。だから、来た時と同じルートを辿(たど)ることにした。


 ──そして、ちょうど階段(かいだん)の前に差しかかったところで、優衣と鉢合わせた。


「何してるの?」

 (たが)いに同時(どうじ)に問いかける。


 ……。


「いや、ちょうど君を探してたんだ」

 俺の方が先に口を開く。


 彼女は少しだけ驚いたように、そして興味深(きょうみぶか)そうに俺を見つめた。

「わたしですか?佐々木様が……何のご(よう)で?」


「リョウコの子供の頃の写真が見たくてさ。アルバムとか、ないかなと思って」


「ございますよ。家族(かぞく)の写真ですが……それでもよろしいのですか?」


 もちろんだ。家族のアルバムなら、より多くのことが分かるかもしれない。

 俺は即座(そくざ)にうなずいた。


「では……リョウコ様のお部屋にお持ちしますか?」


 どちらにすべきか迷ったが、リョウコが目覚めた時にそばにいなければ、不安(ふあん)にさせてしまうかもしれない。何より、自分で「そばにいる」と約束(やくそく)したのだから――。


「ああ、リョウコの部屋で見せてもらえると助かる」


 彼女は一礼(いちれい)して応じた。

「かしこまりました。すぐにお持ちします」


 そう言って階段を下りていき、俺は再びリョウコの部屋へと戻った。


 (とびら)を開けると、彼女はまだ(ねむ)っていた。

 そっと(ひたい)に手を当てる。(ねつ)はかなり()いていた。……少し安心(あんしん)した。


 すると、すぐにドアがノックされた。思ったよりも(はや)い。


「佐々木様、失礼(しつれい)します」


「どうぞ」


 優衣が両手(りょうて)(かか)えるようにして、一冊(いっさつ)の大きなアルバムを運んできた。


「こちら、リョウコ様の写真(しゃしん)アルバムでございます」


「ありがとう」

 丁寧(ていねい)に両手で受け取る。


 優衣は再び一礼して、静かに部屋を(あと)にした。


 こうして、俺は再びリョウコと二人きりになる。

 部屋の中央(ちゅうおう)にある小さなテーブルに(こし)を下ろし、アルバムを開く準備(じゅんび)をした。


 ──ついに、この目で見る時が来た。


 ゆっくりと表紙(ひょうし)を開けると、最初に目に飛び込んできたのは、どこか見覚(みおぼ)えのある風景だった。


 ……いや、ここは日本じゃない。


 まるで序章のような、異国(いこく)空気(くうき)(ただよ)っている一枚(いちまい)


 黄色(きいろ)いワンピースを着たリョウコ、同じく黄色い服を着ているが、まだ黒髪(くろかみ)のままの春姫さん、そして――まだ生後(せいご)数ヶ(すうかげつ)のような、(あか)(ぼう)の直人。


 彼はリョウコと春姫さんによく似た女性の腕に抱かれていた。しかし、その笑顔は冷たく計算されたもので、まるで初めてリョウコに会ったときのようだった。


 その隣には、どこかで見覚えのある顔があった。ただ、どこで見たのかまでは思い出せない。


 茶色の髪をした男性だった。年配ではないものの、多くの経験を重ねたような目をしていた。まるで(いにしえ)賢者(けんじゃ)のような雰囲気(ふんいき)を感じさせた。


 ――もし、それがどこだったか思い出せれば……。


 ページをめくりながら、写真を見続けた。リョウコの写真がたくさんあった。彼女が赤ちゃんの頃から、ずっと笑顔を絶やさない少女だった。


(携帯を取り出して写真を撮ってもいいかな?)


 その考えが突然浮かび、チャンスを逃すまいと行動に移した。今しかない。


 やっぱり、リョウコは小さい頃からとても可愛かった。


 ページをめくりつつ写真を撮る。全部で五枚くらい撮っただろうか、多くはない。


 だが、次のページを開いたとき、ある違和感が胸を突いた。


 突然、彼女の笑顔が消えていた。


 まるで目の光が失われたようだった。最初は微かな違いだったのに、今見るとその変化は明らかだった。いったい何がリョウコに起こったのだろうか。


 隣で眠るリョウコを見た。八歳くらいに見えるその写真では、彼女の目はすでに光を失いかけていた。詳細までは分からないが、知っている人物がいる。


黒川(くろかわ) 水城(みずき)


 きっと彼なら何かを知っているはずだ。あの日、初めて彼と出会ったときのリョウコは、まるで彼がその原因だと知っているかのように怯えていた。


 それなら、リョウコに気づかれないように計画を立てる必要がある。彼女に心配をかけたくない。


 彼女が回復してから、もっと明確に考えることにしよう。それが良いはずだ。


 次のページには、ついに母とリョウコが一緒に写っている写真があった。


 ずっと二人の写真を探していたので、ようやく見つけられて嬉しかった。二人ともとてもよく似合っていた。ただ、リョウコの目はまだあの頃のままだった。


 さらにページを進めると、徐々に彼女の目から虚無感(きょむかん)は消え、冷たさだけが残っていた。


 この頃には、もうセーラー服を着ていて、中学校に入る頃だったのだろう。性格や行動に大きな変化は見られなかった。


 だが、さらに一年後――


 突然、身体の成長が急速に始まった。特に胸が大きくなっていた。


(えっ、どうして……? たった一年でこんなに?)


 前年まではまったくの平坦だったのに、次の年には急激に成長していた。こんなに早い変化は初めて見た。


(それにしても……今の方がさらに大きいし……)


 別に変態じゃない。ただ、その成長の速さに驚いているだけだ。それに彼女はまだ十五歳。


 そういえば、もう年が明けてるけど、リョウコの誕生日っていつだったっけ?


 今度いいタイミングで聞いてみよう。いや、それより……


 たしかLINEのプロフィールに書いてあったような……。


 少し探してみて、ようやく見つけた。


「6月20日……少なくとも、そう書いてある」


 なら、その日のために何か計画を立てよう――。


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