表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/85

第83話 二人きりの願い

「どうして急にそんなことを聞くんだ、リョウコ。でも、君が言うように仮定として考えるなら……まあ、僕は別にいいと思うけど……」


「『けど?』」


「ほら……君がそれをどう思うか分からないし、嫌がるんじゃないかって……たぶんね。」


 そう言い終わった瞬間、リョウコが真剣な表情で僕の(ほお)を両手で挟んだ。


「ミナミくんが受け入れてくれるなら、私が断るわけないでしょ? 私はミナミくんと離れたくない。だから一緒がいいの。ミナミくんを諦められないし、諦めるつもりもないの。」


 リョウコの言葉に僕は驚かされた。彼女がそこまで決意しているのなら、僕も迷うべきではない。結局のところ、僕たちは一緒にいるんだ。だから、僕はしっかりとうなずいた。


 そしてその後、距離が近づいたせいか、リョウコがさらに問いかけてきた。


「じゃあ……私の言葉で気持ちは変わった? それとも、やっぱり同じ気持ちのまま?」


 そう言って、彼女は優しく微笑んだ。


「うん、君の言うとおりだ。やっぱり一緒にやっていくべきだよ。さっきは……ごめん。」


 彼女の顔は僕のすぐ目の前にあって、それでも僕は彼女の唇から目を逸らすことができなかった。いや、今は目を逸らしたくないとすら思った。


 そして予感どおり、彼女の顔が僕に近づいてきた。この雰囲気、この距離感——まさに今年最後のキスにふさわしい瞬間だった。


 だが、ちょうど唇が触れるその直前、僕の携帯が鳴り、同時に百八つの鐘の音が鳴り響いた。


 ……まるで、唯一この瞬間を中断できるタイミングのようだった。でも、それはそれでちょうどいい区切りでもあった。


 僕は彼女から少し離れ、ポケットから取り出したあるものを渡そうとした。


 だが、その前に、彼女が素早く僕に近づき、唇を重ねてきた。今年最初の行動が、それだった。


 その温もりは一瞬で終わったけれど、今度は僕の番だった。


 僕は不安そうな顔なんてしなかった。ただ、彼女の目の前で、まだ慣れていない小さな笑みを浮かべながら、コートの内ポケットから小さな箱を取り出した。


 彼女は少し不思議そうに僕の表情を見ていたが、僕の目と微笑む唇に視線を向けたまま、その黒い小箱を受け取ってくれた。


「はい、ちょっと遅れたけど……これ、クリスマスプレゼントだよ。ごめんね、もっと早く渡せなくて。」


 彼女は箱を開け、中身を見た瞬間、嬉しそうに笑顔を浮かべた。


 その喜びは抑えきれないほどのようで、僕の顔を何度も見ながら、ふたたび中身を見つめていた。そしてそのまま、突然僕に抱きついてきた。


「ありがとう、ミナミくん。本当にうれしい。これ、いつ買ったの?」


 抱きしめられた衝撃で言葉に詰まりながらも、僕は少し照れながら答えた。


「えっと……実は今日の午後に買ったんだ。ユメさんに付き合ってもらって。彼女は君のことを一番知ってるし、それに……君に気づかれたくなかったから。」


「なるほどね。隠そうとしてたのは分かってたけど、なんとなく察してたよ。ほんとにありがとう、ミナミくん。」


「ううん、大したことないよ。君もプレゼントくれたし、これでおあいこだね。」


 彼女は箱の中からネックレスを取り出して、その銀色の輝きに目を奪われていた——まるで、その輝きに心を奪われたかのように。


「とっても素敵だよ、ミナミくん。……つけてくれる?」


 彼女は頷くと、そっとネックレスを渡してきた。僕はそれを受け取ると、彼女が髪を持ち上げるのを待って、ゆっくりと首にかけてあげた。


「たまにはポニーテールにしてみたら? きっと似合うと思うよ。すごく可愛いだろうな。」


「そうかな? ちょっと考えてみようかな。たまにはイメチェンも悪くないしね。」

 彼女は少しおどけたように言った。


「リョウコのそういう一面って、俺しか知らないんじゃない? なんだか特別な気がする。」


 僕がそう言うと、彼女はクスッと笑い、ネックレスをつけ終えると少し距離を取って、僕の正面に立った。


「うん、この姿を知ってるのはミナミくんだけ。だから、もっと誇っていいよ。……それに、私もね、今のミナミくんを知ってるのは私だけ。他にこの顔を見た人なんて、いる?」


 その言葉に、冗談のような響きはあっても、どこか確かな真実があった。


「ううん、リョウコだけだよ。でも、クラスの奴らには言われてるんだ。『お前、変わったな』って。『リョウコの影響だろ』ってさ。そんなに変わったかな、俺……?」


 彼女は少し考えるように目を伏せて、それから記憶を探るように視線を泳がせた。


 やがて、何かを思い出したように顔を上げて言った。


「うん、確かに変わったよ。前よりも心を開くようになったし、何より……私を守ってくれるようになった。それって、最初の頃と比べたら大きな変化だよね。」


「『守ってる』って……? いつ、そんなことしたっけ?」


 思い当たる節がなくて首を傾げると、リョウコはふっと表情を柔らかくして言った。


「あるよ。……黒川に立ち向かってくれたあの日、私のために危険を顧みずに行動してくれた。……その姿を見た時かな。きっと、あれが……私がミナミくんを好きになった理由のひとつ。」


 ――その言葉に、僕は目を見開いた。

 あの日のことは、俺と黒川しか知らないはずなのに……なんで?


「驚いた? 私、すごいでしょ? どうやって知ったかは教えないけど……でも、あの頃はまだちゃんと付き合ってなかったのに、助けてくれて本当にありがとう。」


 そう言って、リョウコは寂しげな笑顔を浮かべながら、そっと僕の頬に触れた。


「本当に……どうやって知ったの? まさか黒川が言ったのか?」


 僕が驚きを隠せずにそう尋ねると、彼女は小さく首を横に振った。


「ううん。彼とは、あの日以来一度も話してない。どうやって知ったのかは――ふふっ、それは今年中にわかるよ。楽しみにしてて、ね?」


「……そっか。わかった、楽しみにしてる。でも、俺からもひとつ、聞いていい?」


「うん、どうぞ、ミナミくん♪」


「……どうして、他のみんなも誘ったの? 今日くらい、二人だけで過ごしたかったのに……結局、グループになっちゃったじゃん。」


「ふふっ、そう思ってたんだ……でもね、実は私、最初から二人きりになるなんて思ってなかったの。

 もし仮にそうだとしても、お姉ちゃんと直人くんは絶対ついて来たと思うし……たぶん、美翔ちゃんと茜ちゃんにも声をかけてたはず。」


「……マジで? それなら、結局どうやっても同じだったってこと?」


「うん、そうなるね。でもさ、今はこうして二人きりになれたんだから、結果オーライじゃない?」


「まあ……確かに。結局は今と変わらなかったんだろうな。」


 その時、僕のコートのポケットが震えた。

 続けて、リョウコのスマホも鳴る。


 それぞれ画面を見ると、リョウコには春陽さんから、僕には美翔からの着信だった。


 ……どうやら、やっと僕たちがいないことに気づいたらしい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ