第81話 少女と秘密の出口
「うん、でも……どこまで行きたいの?」
「わからない。道中で教えるよ。今は……とにかく外に出たいの。案内してくれる?」
「わかった、わかった。それじゃ、ついてきて」
彼女の前を歩きながら、まるで案内人のように道を進み始めた。しかし、たった今出会ったばかりの少女とふたりきりで歩くという状況に、どこか落ち着かない気持ちになっていた。
彼女がその歩調に追いつこうとして、駆け寄ってきたその時――
「ねえ、待ってよ。置いてかないで……」
言葉の途中で、彼女が地面に倒れ込んだ。どうやら枝につまずいたようだった。振り返ったとき、鈍い音と共に彼女が転んだのがわかった。
「大丈夫?ケガしてない?」
心配になって駆け寄る。僕が離れすぎていなければ、こんなことには――。
「平気、大したことないよ」
彼女は痛みに耐えながらも笑ってそう言った。
だが、その笑顔にごまかされることはなかった。左足首が明らかに赤く腫れていて、目にした瞬間に気がついた。
「いや、全然大丈夫じゃないよ。立ち上がっちゃダメ、足首がかなり腫れてる」
動揺しながらも、何とかしようと必死に頭を働かせた。
「そうだ、ここで待ってて。誰かを呼んでくる」
「やだ、やめて。ひとりにしないで……」
僕の言葉が終わると同時に、彼女は強く訴えた。
「もう一度ここでひとりになるのはイヤなの」
その悲しげな表情に、何か言い返そうとする気持ちが薄れていった。じゃあ、どうすればいい……?
少し考えたあと、ふと思いついた方法を口にする。
真っ赤な顔をしながら、僕は背を向けてしゃがみこんだ。
「背中に乗って。僕が運ぶから――……」
彼女は無表情で僕を見つめたまま、動かなかった。
「嫌だったらいいけど……他に方法が思いつかないんだ……」
僕は少し諦めたように続けた。
「……わかった。お願い……でも、顔は見ないでね」
俯いたまま、彼女はそう答えた。
「わかった、見ないよ。だから早く乗って」
彼女はそっと僕の背に身体を預けた。重くはなかった。むしろ、驚くほど軽かった。
彼女の顔は見えなかったけれど、頭の横から伝わってくる静けさと体温が、彼女の緊張を物語っていた。
それからはしばらく無言のまま、歩き続けた。やがて、木々の隙間から光が差し込む――出口だ。
その光景に、彼女の顔がぱっと明るくなった。
「わあ、ここが出口なんだ……やっと出られたんだね」
「うん、ここが出口。ところで、君の家ってどこ?そういえば、君のこと初めて見たけど、新しく引っ越してきたの?」
彼女は少し困ったように顔を伏せ、答えを探しているようだった。
「えっと……すぐ近くなんだけど、そこには行きたくないの。代わりに、お願い……これから行きたい場所を案内するから、そこへ連れてって」
彼女の声から滲み出る不安に、僕は静かに頷いた。
彼女の気持ちを大事にしようと思った。
「わかった、それじゃあ……どこへ行けばいい?」と僕は落ち着いて答えた。
「えっと……」
彼女は道順を教えてくれて、長い道のりを歩いた後、僕たちは少し休憩を取ることにした。近くのベンチに座り、さっき出てきた森が遠くに見える場所だった。
「ちょっと足を見せてもらってもいい?」と僕は座ってから言った。
彼女の怪我を見ても、何もできない自分がもどかしかったけれど、今はただ、少しでも助けになりたかった。結局、あの怪我は僕のせいだったから。
彼女は少し顔を赤らめながら肩をすくめた。
「……いいけど、手早くしてね。こんなこと、同い年くらいの男の子にされたことなんてないから……」
「本当に? まあ、実は僕もこんなふうに、年下っぽい女の子の足を触るのは初めてなんだ」
その瞬間、彼女の顔に「侮辱された!」というような反応が浮かんだ。
「え? 年下? ちょっと言っておくけど、私、七歳なんだからね! ただあなたより少し小さいだけで、たった五センチしか違わないのに……」
「え、そうなの? 全然同い年に見えなかった。もっと小さいと思ってた」
僕は彼女の足を確認しながら、専門家じゃないなりに、痛みを和らげるためにそっとマッサージしてみた。
もちろん、彼女は痛がっていたけれど、少しずつその痛みに慣れていくはずだと思った。そして、しばらく休んだ後、また歩き出して、やがて僕たちは小さなマンガ屋にたどり着いた。
店は少し古びていたが、それでも時折お客さんが訪れていた。店の片隅に椅子があって、彼女にはそこに座ってもらい、僕は立ったまま彼女を見守った。
彼女は徐々にリラックスしていき、まるで僕を背負ってきたのは彼女の方だったかのように、安心した表情を見せた。
「ありがとう……あの、名前、教えてくれる?」
「最初に聞いておくべきだったね。僕は佐々木ミナミ。君は? 名前は……」
彼女がちょうど名前を言おうとしたそのとき――
ひとりの綺麗な女性が現れた。黒くて艶やかな髪に、茶色のシャツ、夏用の帽子、そして染めたようなフィットしたズボンを履いていて、中学生くらいに見えた。
その女性は彼女のもとへまっすぐ歩み寄った。
「どこに行ってたの? ずっと探してたのよ。みんな心配してたんだからね」




