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第75話 リョウコへの贈り物

「さあ、みんな、中に入りましょう」

 春陽さんがいつもの笑顔でそう言った。


 彼女と俺はゆっくりと頷き、中へ向かって歩き出した。そしてリョウコの隣を歩いていたとき、川木さんがリョウコの肩に腕を乗せ、いたずらっぽく俺を見た。


「ちょっとだけ、彼女を借りるわね、彼氏さん」


 困惑した様子のリョウコは、ただ彼女について行くしかなかった。そのとき、俺の背後からタナカとカズトがこっそり近づいてきた。


 彼らの存在には気づいていたが、カズトが俺の背中を軽く叩いたときは、少し痛みを感じるほどで、思わず顔をしかめた。


「おやおやおや、復縁したって聞いてないぞ」

 タナカが俺の左側で言い、カズトは右側にいて、どちらも誇らしげに笑っていた。


「言う必要もなかっただろ。誰も聞いてこなかったし、それにこうして集まるのも久しぶりだしな」


「まあ、確かに。で、いつから付き合ってるんだ? 今日からって感じじゃないな」


 タナカが興味深そうに言った。どうやら、こういう話は常にアップデートしておいてほしいらしい。正直、あまり話したくはなかったが、しつこく聞かれるなら仕方ない。


「クリスマスイブからだ。……これで満足か?」


 二人とも驚いた表情を浮かべた。まあ、俺自身もあの日にそんなことが起きるとは思ってなかったから、無理もない。でも、今思えば、起こってよかったと思ってる。


「ちなみに、詳細は言わないからな。それだけで我慢してくれ」


「はいはい、わかったよ。でもまあ、大体想像はつくかな」


 タナカは考えるような目で言った。

「もしかしてアニメみたいな感じで、ヒロインと橋の上で告白……とか、そんな感じだったのかもな?」


 予想にしてはかなり実際に近かったが、それでもヒントを与えるわけにはいかなかった。


「はいはい、どうでもいいさ」そう言って流そうとしたが、ふと思い出した。


「なあ、お前ら、ちょっと手伝ってくれないか?」


 二人は不思議そうな目で俺を見たが、タナカが代表して答えた。

「ああ、いいけど…何の用だ?」


「リョウコに何かプレゼントしたくてさ。彼女が気に入りそうなものを一緒に探してくれ」


 ……………?


 二人はしばらくぽかんとしていたが、そのあと大笑いし始め、周囲にいたリョウコ、美翔、川木さんだけでなく、通りすがりの人たちの注目まで集めてしまった。


 しばらくして笑いを抑えながらも、まだ周囲の視線を感じているようだった。


 その後も、笑い声を抑えつつようやく落ち着いた二人が口を開いた。


「なあミナミ、こういうことを俺たちに聞くのは間違ってると思うぞ。そういうのは女の子に聞くべきだ。俺たちじゃ、女の子が本当に喜ぶものなんてわからないけど、彼女の友達なら絶対わかるって。誰か仲のいい子に相談した方がいいと思うよ」


 タナカがそんなアドバイスをしてくれた。カズトも頷き、同意を示していた。


 確かにその通りだ。彼女のことをよく知る人に聞くべきだろう。でも、春陽さんに聞けば怪しまれそうだし、直人にも頼めない。


 残された選択肢は――ユメさんだ。兄妹以外でリョウコのことをよく知っているのは、彼女しかいない。だから、彼女に頼るしかない。


「姉ちゃんか弟くんに聞いてみたらどうだ? それもいい案だろ?」

 タナカが前を歩く彼女たちに視線を向けながら言った。彼女たちは穏やかに会話を楽しんでいるようだった。


「それは無理だ。今話しかけたら変に思われるし、あの会話を邪魔したくない」


 リョウコと春陽さんの少し後ろでは、ユメさんと陽葵が二人きりで、楽しそうに何かを話していた。


 すると、カズトがふと思いついたように言った。

「じゃあ、川木さんかユメさんに聞いてみたら? どっちもリョウコの友達なんだろ?」


 悪くない案だ。ただ、川木さんは最近知り合ったばかりだし……ユメさんなら、もっと前からの関係のはずだ。


 運動会の日、リョウコは走り終わった後にユメさんのことを教えてくれた。中学の頃からずっと一緒にいたって。それなら、彼女のことを俺よりも深く知ってるかもしれない。相談するなら、間違いなく彼女だ。


「ありがとう、二人とも。ユメさんに相談して、リョウコにプレゼントを贈る計画を立ててみるよ」


 そう言って彼女たちの方へ歩き出そうとしたが、その前に一言、言っておくことがあった。


「それともう一つ頼みがある。絶対にリョウコには言わないでくれ。サプライズにしたいんだ」


「心配するな、それは二人の秘密にしておくよ。任せとけ」

 タナカが誇らしげに言い、カズトも静かに頷いていた。


「それにしても、リョウコがすごくお前を変えたみたいだな。前のお前はもっと冷たくて、無口で、タナカと俺でさえ会話を続けるのが大変だった。でも今は違う。彼女と出会えて本当によかったな、なあ、タナカ?」


 タナカも頷きながら言った。

「ほんとだよ。リョウコには感謝しないとな。お前をここまで変えたんだから」


 その言葉に少し違和感を覚えた。けど、思い返してみれば――リョウコのために行動したこと、そして周囲と少しずつ心を通わせるようになったこと、全部が少しずつ自分を変えていった。


 二人の言葉は、まさにその通りだった。


「もう、やめてよ二人とも。今そういうこと言われるとなんか照れるし……でも、ありがとう」


「いやいや、礼なんていいって。それより、早くプレゼント買ってきなよ。遅くなる前にさ」


「うん、行ってくるよ」


 そう言って、ユメさんと川木さんの方へ向かった。二人は女の子同士の話で盛り上がっているようだったが、近くまで行ったとき、リョウコたちに気づかれないよう、少し小さな声で呼びかけた。


「ユメさん……ちょっと、手伝ってくれない?」


 控えめな声だったが、ユメさんにはちゃんと届いたようで、こちらを振り返った。


「まあまあ、これはこれは。私の可愛いリョウコちゃんの未来の旦那さまじゃないの」


「いや、それはさすがに早すぎるだろ。まだ俺たち、高校生だし」


「何が悪いの? 早すぎるなんてことないでしょ? 可能性はゼロじゃないんだから。で、なに? リョウコちゃんのことでしょ?」


 少し迷いながらも頷くと、ユメさんは納得したように、すぐ隣の川木さんに目を向けた。


「続けてて。私、ちょっと佐々木君と話したいことがあるから」


 川木さんは頷いてそのまま歩き出した。その後ろを、男子たちもついて行く。


 こうして、ユメさんと二人きりになった。

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