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第73話 ほんの少しの勇気

 私は気まずそうに笑って、なんとか合わせようとしたけど、二人の笑顔はまるで全て計画通りだと言わんばかりだった。


 そして、そのとき――姉さんが口を開いた。


「で? 二人で玄関で何を話してたのか、聞きたいな~」


 一番聞かれたくなかった言葉が、まさか一番聞きたくなかった人の口から出てきたのだ。


「ねえ、リョウコ姉。私たちも知りたいよ」

 二人はいたずらっぽい笑みを浮かべながら、まるで何があったのかを知っているかのように見せてきた。


「それは教えられないよ。それはミナミくんと私の間だけのことだから」

 私はそう言って、自分の決意を貫いた。


 その間、姉さんは美翔ちゃんに青いエプロンを着せていて、二人は目を合わせてうなずき合っていた。まるで、次の作戦でも始めるかのように――。


 それが少し心配になって、表情にも出てしまっていたと思う。


「じゃあさ、お姉ちゃんにも、彼氏のお姉ちゃんにも教えてくれないんだ? 寂しいなぁ~」

 姉さんはまるで落ち込んでるかのような声でそう言った。


 演技だって分かってるけど……それでも、私はどうすればよかったのだろう? どんどん話がややこしくなっていく――


 そう思っていると、ある考えが浮かんできた。


「言いたいけど……ダメなの。ミナミくんとの秘密だから、裏切りたくないの」


 私がそう言うと、二人はきょとんとした顔で私を見つめてきた。

 さすがに、これ以上踏み込(ふみこ)まれることはないはず。少なくとも、そう信じた。


 ……そう思ったのに、次の瞬間、二人が私にぐっと近づいてきた。


「ってことは、よっぽど大きな話だったんだね? 二人だけの秘密にするくらいだし」

 美翔のその一言は、まったく予想していなかった。


 さっきので諦めてくれると思ったのに……どうやらそうはならなかったみたい。


「そ、そうだよ。大事な話だったの。だから、この話はここまでにしよう? それより、そろそろお昼のこと考えよ?」


 二人はしぶしぶうなずいて、それでなんとか話を終わらせることができた。


 ◇◆◇◆


 それから数時間後、昼食の準備はすっかり整ったけど……何度かミナミくんを呼んでも返事がなかった。

 それで、私が様子を見に行くことになった。


 ちょっと心配だった。だって、彼の部屋からはまったく音も聞こえなかったから。

 何してるんだろう……?


 今、私は二階の廊下を歩いていて、彼の部屋の前まで来ていた。

 ドアノブに手をかけたけど、その前にふと考えてしまった。


 ……もしかして、ミナミくん、何かしてるとか?

 たとえば……ううん、違う、違う! そんな人じゃないはず!


 なぜか、シャツを着てないミナミくんが頭に浮かんでしまって、自分でもびっくりした。

 でも、絶対にそんな人じゃない。私はそう信じてる。


 ドアを開ける前に、まずはノックをすることにした。

 もしそれでも反応がなければ、何かあったのかもしれないし、中に入ろう。


 コンコンコン。


 ノックしても、中からは何の反応もなかった。

 ……やっぱり、入った方がいいかもしれない。


「失礼します……」そう言いながら、私はゆっくりとドアを開けた。


 ドアが開くと、そっと中へ入り、ベッドの方を見ると彼の姿が目に入った。


 縮こまっていたわけではなく、ただ横になって何かを考えながら眠ってしまったようだった。スマホは彼の隣にあり、片腕を枕にして眠っている。


 眠っている姿は、普段の彼の様子とはまるで違っていた。前に彼が風邪を引いていた時には気づかなかったけれど……見落としていたのかな? よくわからない。でも今、彼が元気でいてくれて嬉しい。何か悪いことが起きたのかと思ってしまったから。


 私は彼に近づくために、できる限り音を立てないように注意しながら歩いた。


 ベッドの近くまで来ると、そっとしゃがんで、布団の外から彼の顔を覗き込んだ。


 私にとっては、素敵に見えた。こんなことをするのは初めてだったから、少し緊張していたけれど、もう少しだけ彼を眺めていたくなった。


 そうして、時間が過ぎた。といっても、ほんの数分だったけれど、彼が少し動き出した。


 もうすぐ起きるかもしれないと思い、私は立ち上がり、彼が少しでも目を覚ますのを待ちながら微笑み続けた。


「ミナミくん、お昼の時間だよ。そろそろ起きた方がいいよ」


 ミナミくんはやがて私を見た、やがて私の方を見て、ほっとしたようにため息をついた。


「ああ、そっか。うっかり寝ちゃってたみたい。起こしてくれてありがとう、リョウコ」


「ううん、全然いいよミナミくん。それに、君が気持ちよさそうに寝てる姿も見られたし、すごく可愛かったよ」


 ミナミくんは少しの間、疑うような目で私を見た。まるで何か怪しいことをしていないか探っているかのように。


「……何かした? まさか写真とか撮ってないよね?」


 さすがにミナミくん、鋭いというか、勘がいいというか。確かにこんな機会、そう何度もない。実際、彼の写真は私のスマホには一枚もないんだから。


 これを隠し通したらどうなるんだろう? ばれちゃうのかな? わからないけど、とりあえずやってみる。


「何のことか分からないよ、ミナミくん」私はとぼけながら言ったが、彼の表情は変わらなかった。


「そっか。じゃあ……やっぱり撮ったんだよね? スマホ見せてくれない? 僕、自分の写真が撮られてるのって好きじゃないんだ」


 彼の態度が少し変わってきた。まっすぐに私を見るその眼差しは、計画をやめたくなるほどの圧を感じた。でも、ここで引くわけにはいかない。考えすぎない方がいい。


「だから、撮ってないってば、ミナミくん」


 彼は自分のスマホを手に取り、パスコードを入力してロックを解除し始めた。それを見て、私は思わず興味を持って覗こうとしてしまったけど……バレバレだった。


「どうかしたの? ミナミくん」私は何気なく聞いた。


「ううん……でも、やっぱりさ。君が写真を消してくれないなら、僕も君の写真を撮ることにするよ」


 ミナミくんはスマホの背面カメラを私の顔に向けた。


「笑って、じゃないと変な顔で写っちゃうよ」――そんなふうに、ちょっとした復讐(ふくしゅう)のような目で言った。


 反応する暇もなかった。ちゃんと返事すらできなかった。


「ちょ、ミナミくん、冗談だったのに!」そう言った直後、カメラのシャッター音が響いた。


 ミナミくんは落ち着いた目で、ゆっくりと言った。


「そっか、やっぱり冗談だったんだ。……実は僕も冗談だったんだよ。別に君が僕の写真を持ってても構わない。だってさ、お互いに相手の写真を一枚も持ってないんだから。これでおあいこでしょ?」


 つまり――ミナミくんは、私が写真を撮ったことに気づいていたのに、それを理由に自分も写真を撮るために怒ったフリをしてた? なんだか妙な感じ。でも、そんな一面が少しかわいく思えた。私はまだ佐々木ミナミのことを、ちゃんとは知らないのかもしれない。


 でも、ミナミくんも、私のことをまだ全部は知らない。……いや、今はそんなこと考えてる場合じゃない。早く下に行かないと、お昼ごはんが冷めちゃう。


「ミナミくん、そろそろ降りよう。ごはん冷めちゃうよ」


 ミナミくんはベッドに座り始めた。あとは立ち上がるだけ……でも、どれくらいかかるのかな。


「うん」いつもの落ち着いた目でそう答えた。「でもその前に、ちょっと横に座ってくれる? 話したいことがあるんだ」


「うん……でも、何の話?」私は彼の隣に座りながらそう聞いた。


「短く済むけど、一度しか言わないから、ちゃんと聞いて」


 私は彼の言葉に、静かにうなずいた。そして彼は、私とは反対の方向へと顔をそらした。


「年末、一緒に出かけない?」


 その声ははっきりしていた。でも、彼の言葉は私の心に強く響いて、しばらく何も考えられなくなった。……ミナミくんが、私を誘ってくれるなんて。別に悪いことじゃないけど、ただ――


 まだ恋人じゃなかった頃は、こういうこともお互いに自然としてた。……ご褒美だったり、お誘いだったり。でも、今のこれは、明らかに違う。


 それが……なんだか嬉しかった。まさか彼からそんなこと言ってくれるなんて、考えてもみなかった。


 今、返事をするには、彼にこっちを見てもらいたい。……でも、見てくれなくても、きっと私は――


「ミナミくん……」私は少しうつむきながら、微笑んでそう言った。


 彼はゆっくりと私の方へ顔を向け始め、私は慎重に顔を上げた。


「ミナミくん、うん、行こう。誘ってくれて嬉しい。そうやって言ってくれたの、初めてだもん」そう続けた。


 ミナミくんは笑顔は見せなかった。ただ真剣な表情のままだった。でも、きっとその内側では喜んでいるって、私にはわかった。


「そっか。じゃあ、時間と場所の詳細はまた後で伝えるよ。今は、下に降りてお昼を食べよう」


 そう言ってミナミくんは突然立ち上がり、ドアの方へ歩き出した。一方の私は、しばらく動けずに「う、うん、了解」と小さく返事をするだけだった。


 そのあと、私は彼のあとを追ってダイニングへ向かった。


 階下に降りると、みんなが私たちを待っていて、ミナミくんは皆の前に立ち、みんなの視線が私に集まった。


「なにしてるの、リョウコ。早く、座りなさいよ」姉さんが席を指さして言った。その言葉に私は小さくうなずいて、示された椅子へと向かった。


 席についた。そこは、ミナミくんと私だけが並ぶ場所。まるで「カップルにはプライベートを」と言わんばかりに、みんなはテーブルの反対側に移動していった。


 一瞬、気まずさを感じた。でも少し考えたあと、その気まずさもゆっくりと消えていった。表情には出てなかったけど。


 部屋は少しにぎやかになった。女の子たちの声、何を話してるのかよくわからない会話。私はその輪には入らず、ただ静かに聞いていた。


 同じように、ミナミくんとナオトくんも黙ったままだった。そしてしばらくして、全員が席につき、テーブルの上には豪華なごちそうが並んでいた。


「いただきます!」


 ――お昼ごはんは、まさに戦場だった。こんなに多くの人と一緒に食べたのは初めて。でも、不思議と今は心地よかった。大切な人たちと過ごす時間、それが何よりも幸せだった。


 特に、愛する人が隣にいることが。


 これ以上の幸せなんて、今はないかもしれない。早く年末が来てほしい、ミナミくんと一緒に出かけたい。……どこに連れて行ってくれるんだろう? だめだだめだ、まだ考えるのは早い。


 今は、この瞬間を大切にしよう。これから、もっと頑張ろうって――そう思った。


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