第68話 陽葵は……
マリーは……が、出口が分からなかった、どうやってそこから抜け出せばいいのか分からなかった。外には山田さんが待っていて、彼女が選んだ服のうちのどれかをマリーが着るのを見たがっているはずだった。
(どうすれば……?あ、そうだ)
マリーは部屋の隅に身を寄せ、手を合わせて目を閉じた。まるで祈るような姿勢だった。
しばらくして、ゆっくりと目を開けると、もうそこにはいなかった。彼女の周囲はまったく違う景色に変わっていた。すぐ近くには大きな建物があり、その建物は多くの住宅に囲まれた高校だった。
彼女は電柱のそばに立っていて、左の方へ視線を向けると、その高校の正門が見えた。
人々が通り過ぎる中で、彼女は地図を開いた。だが誰も彼女の存在に気づいていないようだった。それに、今の彼女の服装は、さっきまで着ていたものとはまるでそれに、今の彼女の服装は、さっきまで着ていたものとはまるで違っていた。
身にまとっていたのは、まるで神話の女神のような、古代の時代の衣装――優雅な布が風に揺れ、きらびやかな装飾が陽光を反射していた。
今の彼女が身にまとっていたのは、まるで神話の女神のような、古代の時代の衣装だった。そう、彼女がこの世界に初めて来たときに着ていたあの服だった。
レーダーを見ると、ハグキが高校の正門へ向かっているのが分かり、マリーの顔が輝いた。彼女はそっと電柱から身を乗り出して様子を伺った。
すると、手を繋いでいる高校生の男女が校舎から出てきた。
マリーは一瞬、目を見開いた。
(お兄様? あれは……お兄様だよね? 本当にこの世界に転生してたんだ。レーダーが間違えるはずないし……でも、あの白っぽい髪の女の子は誰?)
マリーは記憶をたどろうとした。知っている誰かと一致しないか思い出そうとしたが、どうしても思い出せなかった。今の彼女には、その少女が誰なのか思い出すことはできなかった。
けれど、ひとつだけ確信できることがあった――この世界のお兄様は、ひとりじゃないということ。
彼には、共に人生を歩む誰かがいるのだ。
マリーにはまだその全てが理解できていたわけではなかった。けれど、それでも、彼らの背中を見送りながら、自然と微笑みがこぼれた。
「やっと見つけたよ、お兄様」
その言葉は静かな笑みとともに、彼女の胸から溢れ出た。目の前にいる兄の新しい姿を見つめながら、今はまだ声をかけられなくても、彼女はもうすぐきっと話しかけられると信じていた。
そして、次の瞬間――マリーの脳裏にある考えが閃いた。
突然、あの無邪気で茶目っ気たっぷりの笑顔が戻ってきた。
「待っててね、お兄様。パパは無理に記憶を取り戻させないようにとおっしゃっていたから……だから、私はあなたにとって「新しい誰か」としてそばにいるよ。今度こそ、ちゃんと守ってあげるんだから」
(えっ……)
マリーは観察を続けているうちに、懐かしい視線を見つけた。それは、長い間出会うことのなかった、ある人物のまなざしだった。ハグキと同じ高校から出てきた、その人物――
彼女は他の生徒と同じ制服を着ていたが、その美しさは、ハグキの隣にいた少女と同じくらい、いやそれ以上に際立っていた。紫がかった瞳に、茶色の髪――すぐに誰なのか分かった」。
(陽葵……?なぜ、女神が「お兄様」の通う高校に?最後に彼女の存在を感じたのはずいぶん昔……お兄様が消えてしまった後だったはず)
「まさか……」
疑念が胸をよぎり、それがどんどん膨らんでいく。
もう少しだけ身を乗り出して見ようとしたそのとき、陽葵がふとこちらを振り返り、マリーの方へ歩き出した。
その瞬間、マリーは驚き、彼女の視線が自分に向いたことに気づいて、とっさに壁に背中を押しつけるようにして身を隠した。もう十分な情報は得られた。彼女は目を閉じ、再び手を合わせて何かを小声で唱え始めた。
しばらくして目を開けると、そこはもう元の場所だった。試着室の隅で、さっきのように静かに座っていた。
小さくため息をつくと、しばらくして山田さんが試着室の入口に近づいて声をかけてきた。
「マリー、大丈夫?」
その声には、かすかだが心配の色が混じっていた。
静けさの中で、マリーはすぐに返事をした。
「うん、大丈夫だよ。ちょっと寝ちゃってたみたい、えへへ……」
するとすぐに、山田さんがほっとしたように大きく息を吐いた。
「もう、驚かさないでよね。さあ、早くして。夜になっちゃうよ」
「うん」とマリーは小さく答えた。それを聞いて、山田さんはその場を離れ、どこか座れる場所を探しに行った。
その後の午後は穏やかに過ぎていった。山田さんは買い物を終えた後、マリーを食事にも誘ってくれた。街を歩きながら楽しく過ごす時間だったが、それでもマリーの頭から陽葵のことは離れなかった。
陽葵――彼女は、「パパ」が「お兄様」と「創造者さま」を創ったあと、最初に創られた女神だ。彼女から他の神々が生まれ、存在の時間だけを見れば、マリーよりもはるかに「年上」だった。
上位世界が平和だったころ、陽葵とマリーは親しい友達になった。だが、あるとき彼女は突然姿を消した。
最後に彼女を見たのは、「少しやることがあるから、しばらく会えない」と言われたときだった。パパからは何も聞いていない。なのに――どうして彼女は、なんで「お兄様」が転生したことを知ってるの?」
もしかして――彼女が物語の鍵となる存在だから? そうかもしれない。でも……。
そのとき、不意に思考が遮られた。山田さんが、マリーの名前を何度も呼んでいた。
ふと我に返ったマリーは、ゆっくりと彼女の方を向いた。その顔には、わずかな戸惑いが浮かんでいた。
「ごめんなさい、ちょっとボーッとしてたみたい」マリーは気まずそうに笑いながら言った。「どうかしたの、山田さん?」
「もう遅いから、あなたの部屋まで送るわよ」と、山田さんは真剣な口調で言った。
マリーはすぐにうなずき、山田さんは歩き出した。
「明日は、事務所を見せてあげる。朝、迎えに行くからね」
「了解ですっ!」とマリーは笑顔で返事をしながら、おでこに手を当てて敬礼のポーズをした。




