第58話 告白
ミナミ君は戸惑ったように私を見つめていた。まるで、私が何を言ったのか理解できていないように。
でも私は、もう決めていた。自分の気持ちを全部伝える覚悟だった。
「本当に、あなたのことが好き。ずっと会いたかった、ずっと一緒にいたかったの…」
私はミナミ君から離れなかった。代わりに、そっと彼の胸に頭を預けて、心を落ち着かせようとした。
あのキスを後悔していないし、今の私を後悔もしていない。ただ、彼の答えが聞きたかった。
不安で心が押し潰されそうだった。だけど、それでももう後戻りはしないって決めていた――
そう思っていた時、ミナミ君が突然、私の頭を優しく撫でてくれた。
彼は体を起こそうとしたので、私は少しだけ体を離した。
まだ状況を把握できていないようだったけど、やがて彼の表情に温かい笑顔が浮かんだ。
それは、今までに一度も見たことがないような、優しくてあたたかい笑顔だった。
ミナミ君はまるで大切な人を抱きしめるように、私をそっと包み込んでくれた。
そして、そのまま私の耳元で囁いた。
「俺も……リョウコのことが好きだよ。俺も、ずっと会いたかった」
その言葉に、顔が真っ赤になった。
でもそれ以上に、心の底から嬉しかった。
私は彼をもっと強く抱きしめて、気持ちを返してくれたことに心から感謝した。
「……もう一度、キスしてもいい?」
「したいなら、止めたりしないよ」
私は少しだけ彼から離れ、再び彼の唇に自分の唇を重ねた。
今度は、しっかりと想いを込めて――私の“好き”を伝えるために。
しばらく優しく口づけを交わしていたが、自然と唇が離れたその時――
「リョウコ、俺と付き合ってほしい?」
ミナミ君がそう言って、私たちはまっすぐに見つめ合った。
胸が、ぽかぽかと温かくなるのを感じた。
怖さなんてなかった。ただ、嬉しくて、涙が出そうだった。
まさかミナミ君からそんな言葉を聞けるなんて思っていなかった。
でも――今、彼は目の前で微笑んでいる。
それだけで、全てが報われたような気がした。
嬉しさで胸がいっぱいになった。
よく考えたら、私は『好き』って言ったけど、『付き合いたい』までは言ってなかった。
だからこそ、ミナミ君の言葉が、何よりも嬉しかった。
「うん、付き合いたい。ミナミ君、私……すごく幸せ。告白してよかった」
ミナミ君は、私の手をぎゅっと握ってくれた。
まるで、それがこれから始まる“本物の関係”の合図のように。
信じられないけど、これが現実なんだ。私は今、彼と本当に繋がっている。
「ありがとう、姉さん……」
心の中でそう呟きながら、ミナミ君と手を繋いだまま立ち上がった。
そして私は、嬉しさを隠せずに彼の腕に寄りかかりながら、ふたりで再び公園通りへと歩き出した。
――偽りから始まった関係だったけど、こうして私たちの“本当の恋”が始まった。
こんなに幸せな気持ちになれるなんて――私はこの時間が永遠に続いてほしいと心から願っていた。
少しだけど、ミナミ君が私に心を開いてくれているのが分かる。それだけでも嬉しくてたまらない。
きっと、これからもっと彼のことを知っていける。そう思うと胸が高鳴った。
でも、そう思った矢先――彼の声が私の足を止めさせた。
その声には、どこか重みがあった。表情も、さっきまでとは違い真剣なものに戻っていた。
「……?」
私は少し不安そうに彼を見つめたが、それでもすぐに笑みを浮かべて、彼の腕にそっと寄りかかった。
まるで「話していいんだよ」って伝えるように。
「リョウコ。中学の頃に起こったこと……あの友達が死んだ後のことを、ちゃんと話しておきたいんだ」
まさか、今このタイミングでその話をするとは思っていなかった。
――そういえば、前に美翔ちゃんと茜ちゃんがその話をしてたっけ。
「もしミナミ君が自分からそれを話したら、それはきっと相手のことが本当に大切だからだよ」
……そんなことを、たしかに彼女たちは言っていた。
言葉の最後まで言わなかったけど、あれはきっと、私自身で気づいてほしかったからだと思う。
今こうして、彼が自分の過去を話そうとしてくれている――それだけで、私は嬉しかった。
心の中に、じんわりと温かい灯がともるようだった。
私はふっと微笑み、彼の唇をチラッと見つめた。
ついさっきキスを交わしたその唇に目が行ってしまうなんて……。
彼はすぐに気づいたみたいで、私は思わず目線をそらしてしまった。
恥ずかしい……けど、なんだか幸せ。
そして、私たちは歩道橋の中央に立ち止まった。
目の前にはキラキラと光るイルミネーションに彩られた木々と、下を走る車の光の帯が見えていた。
そんな幻想的な景色の中で――彼は静かに、口を開いた。
「……拓也が死んだあと、よく彼の家の前に通ったんだ」
ミナミ君の声は、どこか遠くを見つめるようなものだった。
「現実だってわかっていても、信じたくなかった。俺にとって、唯一の友達だったから」
彼は、ふと目を伏せた。
その姿に、私は言葉を挟むことができなかった。ただ、そっと彼の手を握る。
「彼はいつも俺に言ってた。『もっと普通に生きろよ』って。
家に引きこもってばかりじゃなくて、世界を見ろって」
それは、誰よりも彼のことを思っていたからこそ言えた言葉なのだろう。
「……でも、あの時、まだ彼が想いを寄せてた子にその気持ちを伝えてなかった。
あの子は、もし知ったら……たぶん、すごく悲しむと思って。
でも、彼の家族――両親も、妹も、先生たちには何も話さなかった」




