第48話 偽りの関係の終わり
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次の日が訪れた。授業中もずっと、リョウコにどう伝えればいいのか考えていた。突然のことだが、もう選択肢はなかった。
一方で、カズトとタナカがリョウコのことでからかってきた。「お前、運が良すぎるだろ」「正直、羨ましいわ」――そんな言葉を聞いても、普段なら気にしない。しかし今はただ、窓の外を見つめるだけだった。
この関係を終わらせると伝えることを思うと、胸が痛んだ。苦しかった。それでも、やるべきことだった。キザキはもう、彼女の視界にいないのだから。
俺が窓を見つめたことで、二人は勘づいたようだった。
「沢渡さんと何かあったのか?」
言葉が揃っていなかったが、俺には意図が伝わった。
だが、話す理由はない。ただ彼らの声を聞き流し、また窓の外へと視線を戻した。
放課後、約束した公園へ向かった。これまで何度もここで会ってきた。そのたびに何をしていたのか思い返す。それでも、俺は進むしかなかった。
やがて、彼女が現れた。どこか冷たい目をしていたが、何かすれば笑ってくれる気がした。ただ、それは俺が知っている笑顔ではなかった。まるで、俺たちが出会った頃のように――。
「あなたが話したいことを言ったら、私も伝えたいことがあるの」
「わかった、じゃあ俺から言う」
リョウコは小さく頷いた。それはまるで「どうぞ、始めて」と言う合図のようだった。
「この関係を終わりにしよう。目的は果たされた。キザキはもう君を探していない。だから、そろそろ終わりにすべきだと思う」
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少し前、私はミナミくんを待ちながら、期待に胸を膨らませていた。ついに言おう。自分の気持ちを伝えようと決めていた。でも、その前に彼が何を言いたいのかも気になった。いつも通りに振る舞うべき? 多分、それが一番いい。
「私、間違っていたのかな……? ミトちゃんとも話していなかったし、どう答えればいいのかもわからない」
そんなことを考えていると、彼が現れた。
「わかった、じゃあ俺から言う」
私は頷いて、彼に先を促した。
「この関係を終わりにしよう。目的は果たされた。キザキはもう君を探していない。だから、そろそろ終わりにすべきだと思う」
――その言葉は、私の心を引き裂いた。
今、ここで終わり? そう、確かに最初からの約束だった。彼の言う通りだ。でも……なぜ今なの?
彼は続けた。
「その前に、君が言いたかったことを聞かせてくれ」
もう、意味がなかった。もう、言えなかった。すべてが終わったのだ。ただ、受け入れるしかない。
崩れ落ちそうだった。でも、耐えなければならなかった。今だけは、取り繕わなければ。そうすれば――彼に気づかれずに済むかもしれないから。
「……実は、私も同じことを言おうと思ってたの。私もこれを伝えたかった。今まで本当にありがとう。……じゃあ、もう行くね。やることがあるから。」
ミナミくんは静かに頷き、そして、お互い別々の道を歩き出した。
こんなにも美しい午後に、こんなにも辛い思いをするなんて思わなかった。すぐにタクシーを捕まえ、「家までお願いします」と声を震わせながら告げた。
これはあまりにも残酷だった。あまりにも苦しかった。彼との思い出がすべて頭をよぎる。彼が体調を崩したとき、私がそばで看病していたこと――そんな何気ない時間すら、今は胸を締めつける。
涙が止まらなかった。堪えられなかった。叫びたかった。彼の名前を呼びたかった。どれほど好きなのか伝えたかった。どれほど一緒にいたかったのか――ただ、それだけでも言えたらよかったのに。
どれくらい泣いたのか分からない。ただ、初めて好きになった人との終わりがこんな形になるなんて、あまりにも酷すぎる――。
そんなとき、不意に直人の声が聞こえなくなった。
ドアを叩く音も消え、代わりに聞こえたのは、ねえさんの声だった。
「リョウコ、大丈夫? 何かあったの?」
心配そうな声だった。まるで、何があったのかすでに察しているかのような――。
「ドアを開けて。私が力になるから。」
声のトーンを落としながら、優しくそう言った。
私は涙を拭きながら、毛布にくるまり、ただじっとしていた。
しばらくすると、ねえさんが部屋に入ってきた。おそらく、合鍵を持っていたのだろう。それしか、ここに入る方法はないはずだから。
彼女は直人に帰るよう伝え、静かにドアを閉めた。
「……もしかして、アイツに振られた?」
軽くからかうような口調だった。けれど、私の様子を見て、それが冗談では済まないことをすぐに察したのだろう。表情を改め、私の隣に座った。
「……まさか、本当に別れたの?」
私は何も答えなかった。でも、それが彼女には「イエス」と同じ意味になったのだろう。
毛布を引っ張られたけど、出てきたのは涙で濡れた顔と、悲しみに沈んだ表情だけだった。
「……何があったのか、話せる?」
「……私のせいかもしれない。彼のことを、ちゃんと見てなかったのかもしれない。でも、それだけが理由じゃないと思う。ただ……今回だけは、今回だけは……私の気持ちが――」
涙を抑えきれなかった。
初めて人を好きになって、それなのに何も伝えられなかった。つい最近、その気持ちに気づいたばかりなのに。
「……こんなに苦しいなんて。胸が締めつけられる。……こんな気持ち、どうしたらいいの……?」
考えれば考えるほど、イライラした。
自分自身に腹が立った。
伝えられなかったことに。
何もできなかったことに。
無力だった――それは仕方のないことだった。
でも、これは自分が招いた結果だ。
もし、あの時、彼に気持ちを伝えていたら?
もし、もっと早く打ち明けていたら?
こんなふうに苦しむことはなかったのだろうか?
ねえさんは何か言おうとしたが、言葉を飲み込んだ。
彼女はまだ全貌を掴めていない。でも、ミナミくんが「君を傷つけることはしない」と言っていたことを知っている。
……それなのに、結局、自分で傷つけるようなことをしてしまった。
彼女も何もできなかったのだろう。
ただ、私に時間が必要だと察して、静かに部屋を出ていった。
私は一人になりたかった。
彼との思い出を、もう一度思い返したかった。
私たちの出会いは奇妙だった。
ただの“利害関係”で始まった関係だった。
……なのに、気づけば、彼に恋をしていた。
私が間違えたことは、たくさんあった。
たぶん、あの時あんなふうに距離を取ったのも、間違いだった。
――スマホを手に取る。
メッセージを開くと、そこにはミナミくんからの未読のメッセージが並んでいた。
彼は何日も待っていた。
私が応えるのを、ずっと待っていた。
……それなのに、私はずっと彼を無視していた。
――バカみたいだよね?
彼の笑顔を思い出す。
あの日のあの笑顔が、本当に心からのものだったなら――。
私の冷たい態度は、彼をどれだけ傷つけたんだろう?
何度も送られてきた同じようなメッセージ。
それなのに、私はただ“既読”をつけるだけで、まともに読もうとすらしなかった。
今になって、ようやく気づいた。
今になって、ようやく後悔した。
「……ごめん、ごめんね……」
でも、もう遅い。
何もできない。
スマホをぎゅっと握りしめる。
悔しさと悲しさで、また涙が溢れる。
手が震える。
体が震える。
思い出せば思い出すほど、後悔が押し寄せる。
結局、告白する前に終わってしまったようなものだ。
でも、こうしてメッセージを読んで、分かった。
――私は、自分でも気づかないうちに、彼を傷つけていた。
それに気づいた頃には、何時間も経っていた。
いつの間にか、眠りに落ちていた。




