表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/155

第48話 偽りの関係の終わり

 ◇◆◇◆

 次の日が訪れた。授業中もずっと、リョウコにどう伝えればいいのか考えていた。突然のことだが、もう選択肢はなかった。


 一方で、カズトとタナカがリョウコのことでからかってきた。「お前、運が良すぎるだろ」「正直、羨ましいわ」――そんな言葉を聞いても、普段なら気にしない。しかし今はただ、窓の外を見つめるだけだった。


 この関係を終わらせると伝えることを思うと、胸が痛んだ。苦しかった。それでも、やるべきことだった。キザキはもう、彼女の視界にいないのだから。


 俺が窓を見つめたことで、二人は勘づいたようだった。

「沢渡さんと何かあったのか?」

 言葉が揃っていなかったが、俺には意図が伝わった。


 だが、話す理由はない。ただ彼らの声を聞き流し、また窓の外へと視線を戻した。


 放課後、約束した公園へ向かった。これまで何度もここで会ってきた。そのたびに何をしていたのか思い返す。それでも、俺は進むしかなかった。


 やがて、彼女が現れた。どこか冷たい目をしていたが、何かすれば笑ってくれる気がした。ただ、それは俺が知っている笑顔ではなかった。まるで、俺たちが出会った頃のように――。


「あなたが話したいことを言ったら、私も伝えたいことがあるの」


「わかった、じゃあ俺から言う」


 リョウコは小さく頷いた。それはまるで「どうぞ、始めて」と言う合図のようだった。


「この関係を終わりにしよう。目的は果たされた。キザキはもう君を探していない。だから、そろそろ終わりにすべきだと思う」


 ◇◆◇◆


 少し前、私はミナミくんを待ちながら、期待に胸を膨らませていた。ついに言おう。自分の気持ちを伝えようと決めていた。でも、その前に彼が何を言いたいのかも気になった。いつも通りに振る舞うべき? 多分、それが一番いい。


「私、間違っていたのかな……? ミトちゃんとも話していなかったし、どう答えればいいのかもわからない」


 そんなことを考えていると、彼が現れた。


「わかった、じゃあ俺から言う」


 私は頷いて、彼に先を促した。


「この関係を終わりにしよう。目的は果たされた。キザキはもう君を探していない。だから、そろそろ終わりにすべきだと思う」


 ――その言葉は、私の心を引き裂いた。


 今、ここで終わり? そう、確かに最初からの約束だった。彼の言う通りだ。でも……なぜ今なの?


 彼は続けた。

「その前に、君が言いたかったことを聞かせてくれ」


 もう、意味がなかった。もう、言えなかった。すべてが終わったのだ。ただ、受け入れるしかない。


 崩れ落ちそうだった。でも、耐えなければならなかった。今だけは、取り繕わなければ。そうすれば――彼に気づかれずに済むかもしれないから。


「……実は、私も同じことを言おうと思ってたの。私もこれを伝えたかった。今まで本当にありがとう。……じゃあ、もう行くね。やることがあるから。」


 ミナミくんは静かに頷き、そして、お互い別々の道を歩き出した。


 こんなにも美しい午後に、こんなにも辛い思いをするなんて思わなかった。すぐにタクシーを捕まえ、「家までお願いします」と声を震わせながら告げた。


 これはあまりにも残酷だった。あまりにも苦しかった。彼との思い出がすべて頭をよぎる。彼が体調を崩したとき、私がそばで看病していたこと――そんな何気ない時間すら、今は胸を締めつける。


 涙が止まらなかった。堪えられなかった。叫びたかった。彼の名前を呼びたかった。どれほど好きなのか伝えたかった。どれほど一緒にいたかったのか――ただ、それだけでも言えたらよかったのに。


 どれくらい泣いたのか分からない。ただ、初めて好きになった人との終わりがこんな形になるなんて、あまりにも酷すぎる――。


 そんなとき、不意に直人の声が聞こえなくなった。


 ドアを叩く音も消え、代わりに聞こえたのは、ねえさんの声だった。


「リョウコ、大丈夫? 何かあったの?」


 心配そうな声だった。まるで、何があったのかすでに察しているかのような――。


「ドアを開けて。私が力になるから。」


 声のトーンを落としながら、優しくそう言った。


 私は涙を拭きながら、毛布にくるまり、ただじっとしていた。


 しばらくすると、ねえさんが部屋に入ってきた。おそらく、合鍵を持っていたのだろう。それしか、ここに入る方法はないはずだから。


 彼女は直人に帰るよう伝え、静かにドアを閉めた。


「……もしかして、アイツに振られた?」


 軽くからかうような口調だった。けれど、私の様子を見て、それが冗談では済まないことをすぐに察したのだろう。表情を改め、私の隣に座った。


「……まさか、本当に別れたの?」


 私は何も答えなかった。でも、それが彼女には「イエス」と同じ意味になったのだろう。


 毛布を引っ張られたけど、出てきたのは涙で濡れた顔と、悲しみに沈んだ表情だけだった。


「……何があったのか、話せる?」


「……私のせいかもしれない。彼のことを、ちゃんと見てなかったのかもしれない。でも、それだけが理由じゃないと思う。ただ……今回だけは、今回だけは……私の気持ちが――」


 涙を抑えきれなかった。


 初めて人を好きになって、それなのに何も伝えられなかった。つい最近、その気持ちに気づいたばかりなのに。


「……こんなに苦しいなんて。胸が締めつけられる。……こんな気持ち、どうしたらいいの……?」


 考えれば考えるほど、イライラした。


 自分自身に腹が立った。

 伝えられなかったことに。

 何もできなかったことに。

 無力だった――それは仕方のないことだった。

 でも、これは自分が招いた結果だ。


 もし、あの時、彼に気持ちを伝えていたら?

 もし、もっと早く打ち明けていたら?

 こんなふうに苦しむことはなかったのだろうか?


 ねえさんは何か言おうとしたが、言葉を飲み込んだ。

 彼女はまだ全貌を掴めていない。でも、ミナミくんが「君を傷つけることはしない」と言っていたことを知っている。

 ……それなのに、結局、自分で傷つけるようなことをしてしまった。


 彼女も何もできなかったのだろう。

 ただ、私に時間が必要だと察して、静かに部屋を出ていった。


 私は一人になりたかった。

 彼との思い出を、もう一度思い返したかった。


 私たちの出会いは奇妙だった。

 ただの“利害関係”で始まった関係だった。

 ……なのに、気づけば、彼に恋をしていた。


 私が間違えたことは、たくさんあった。

 たぶん、あの時あんなふうに距離を取ったのも、間違いだった。


 ――スマホを手に取る。


 メッセージを開くと、そこにはミナミくんからの未読のメッセージが並んでいた。

 彼は何日も待っていた。

 私が応えるのを、ずっと待っていた。

 ……それなのに、私はずっと彼を無視していた。


 ――バカみたいだよね?


 彼の笑顔を思い出す。

 あの日のあの笑顔が、本当に心からのものだったなら――。

 私の冷たい態度は、彼をどれだけ傷つけたんだろう?


 何度も送られてきた同じようなメッセージ。

 それなのに、私はただ“既読”をつけるだけで、まともに読もうとすらしなかった。


 今になって、ようやく気づいた。

 今になって、ようやく後悔した。


「……ごめん、ごめんね……」


 でも、もう遅い。

 何もできない。


 スマホをぎゅっと握りしめる。

 悔しさと悲しさで、また涙が溢れる。

 手が震える。

 体が震える。


 思い出せば思い出すほど、後悔が押し寄せる。

 結局、告白する前に終わってしまったようなものだ。

 でも、こうしてメッセージを読んで、分かった。


 ――私は、自分でも気づかないうちに、彼を傷つけていた。


 それに気づいた頃には、何時間も経っていた。

 いつの間にか、眠りに落ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ