第44話 君の世話をする一日
もう12月の初めだった。
黒川のことや東京タワーでのデートから、もうほぼ1ヶ月が経っていた。最近は特に変わったこともなく、今は夜。俺は学校の課題に集中していた。
「お兄さん、起きてる?」
美翔の声がドアの向こうから優しく響いた。
優しくて少し小さな声だったが、それでも俺が立ち上がるには十分だった。
「どうかした?」
そう言いながら、俺は自分の部屋のドアを開け始めた。
「変に思うかもしれないけど——本当におじいちゃんたちのところに行かなくていいの?」
彼女がこれを聞きに来たのは分かっていた。正直、もう少し早く来ると思っていたくらいだ。
「いや、無理だよ。この時期の俺の体調のこと、知ってるだろ?」
彼女はそれを忘れていたようだった。
けれど、これで思い出したはずだ。数秒考え込んだ後、ようやく思い出したような顔をした。
「もしかして、茜がちゃんと教えてくれなかったのかな?」と俺は続けた。
「えへへ、ごめんね」
そう言いながら、彼女は部屋の中に入ってきた。
「お兄さん、夜に窓を開けっぱなしにしちゃダメだよ。あとで風邪をひいたって文句言わないでね」
「大丈夫だよ、それくらいで風邪なんかひかないって」
「まあいいけど、ちゃんと閉めてよ?」
「わかったわかった、じゃあもう出て行って」
俺はほとんど追い出すように言った。こんな時間にここにいるのは遅すぎる。
「はいはい、もう出るよ」
彼女が部屋を出て、俺はすぐにドアを閉めた。そして、窓を閉めようと向かった。
しかし、その瞬間くしゃみが出た。
——寒さのせいか。明日、影響が出なければいいけど。
そして翌朝——
起きると、体が妙にだるかった。
まさか、昨日言われたことが的中したのか?
俺の様子を見た美翔は、すぐに不機嫌になった。それに、茜と一緒におじいちゃんたちのところへ行くのをやめようかとまで考えていたらしい。
だが最終的には、なんとか説得できた。
一日だけでも一人でいたかった。たとえ病気でも。それを口に出すことはできなかったし、これからもできるかどうかわからない。結局、出かける前にドアを閉めるべきだった。今のうちにちゃんと閉めておいた方がいいだろう。何が起こるかわからないから。
幸い、階段を降りるくらいの体力はまだ残っていた。
階段を降りて玄関へ向かい、ドアを閉めようとしたとき、突然めまいがした。しかし、閉めようとしたドアの向こう側から何か強い力が働いて、それを阻止していた。
それが幻だったのかどうかはわからない。ただ、意識を失う直前に見えたのは、銀白色の髪の少女だった。彼女を見た瞬間、思わず言葉がこぼれた。
「……君は天使なのか?」
少女は顔を赤らめ、慌てて俺を支えようとした。そして、なんとか俺の体を受け止めることに成功したようだ。意識が遠のく中、彼女が俺の名前を叫ぶ声が聞こえた。
次に目を覚ましたとき、俺は自分のベッドにいた。リョウコに貸していたスライムの小説の巻がいつの間にか、いつの間にか本棚に戻されている。そして、階下からは料理をする音が聞こえてきた。
料理をしているような音誰かが何かを作っている。降りてみようかと思ったが、まだ体がだるかった。無理に動けば悪化するかもしれない。ここでじっとしていた方がいいだろう。
枕元にあったスマホを手に取ると、リョウコからのメッセージが二件のメッセージ届いていた。
【家にいる?会いたいんだけど】
【美翔に頼まれて、あなたの看病に行くわ。今向かってる】
どちらも、美翔と茜が祖父母の家へ向かう前に送られたものだ。ということは――今、キッチンにいるのはリョウコである可能性が高い。
階下から漂う料理の匂いは、とても美味しそうだった。
そして、誰かしばららくすると——彼女が部屋の前に現れた。




