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第35話 カノウセイ

 

 か分からないような、そんな予測不能(よそくふのう)なところが、むしろ彼女の魅力の一つだった。


「質問に答えてくれてありがとう」


 その後、授業中に彼女は教室の前に立ち、文化祭で何をするのがクラスにとって最適かについて話していた。今年に入ってからさまざまな案が出ていたが、どれも自分にはあまり興味が湧かなかった。

 当時の自分は今の自分とは違っていた。今の自分が考えていたのは、「どうすれば最も生徒の注目を集められるか」だった。


 メイド喫茶やお化け屋敷、その他の案を考えてみたが、どれも制約(せいやく)が多すぎる気がした。

 この状況では、メイド喫茶が最も効果的だと考えた。お化け屋敷もそれなりに来場者(らいじょうしゃ)が見込めるかもしれないが、メイド喫茶の方が圧倒的に集客力があるだろう。

 もっとも、川木さんにとってはあまり気が進まないかもしれない。だからこそ、まずは彼女に相談するのが先決だった。


 彼女がいれば、確実に多くの客を引きつけることができる。彼女はまさにクラスの切り札だった。


 授業中、彼女が手を止めている瞬間を見計らって質問してみた。すると、彼女は軽く頷いてくれた。


 そして今、彼女は文化祭の活動のクラス代表を発表しようとしていた。

 だが、自分一人ではなかった。もう一人選ばれることになっていた。そして、それは川木さんではなかった。


 バランスを考慮して、もう一人は女子でなければならなかった。男子二人だけでは、運営が偏ってしまう可能性があるというのがクラスの考えだった。


 そこで、彼女の友人の中で、知的な雰囲気を持つ人物が選ばれることになった。


「佐々木ミナミ、天音凛、前に出てくれる?」


 天音あまね りん。黒髪の女の子で、賢くて芯が強そうな印象の人物だった。

 リョウコや川木さん、生徒会長と比べると華やかさには欠けるかもしれないが、魅力的な雰囲気は持っていた。

 彼女は教室の左側、後方の席に座っていることが多く、周りの生徒に埋もれてしまうこともあった。


 それでも、成績(せいせき)が優秀で目立つこともあった。そのため、川木さんは彼女を選んだのだろう。


「これからこの二人が文化祭のクラス代表を務めます。異議はありますか?」


 彼女がそう言い放つと、クラスの誰も反論しなかった。

 ただ、積極的に関わろうとする者もいなかった。もしかすると、面倒ごとに巻き込まれるのを嫌がっているのかもしれない。


「これからよろしくお願いします、佐々木さん」

 彼女は少し緊張した面持ちでそう言った。きっと、大勢の前で注目を浴びるのが落ち着かないのだろう。


「ああ、こちらこそよろしく、天音さん」


 これからは忙しくなるだろう。

 まずは何をやるかを決めることから始めなければならないが、すでに大方の流れは決まっており、メイド喫茶が有力だった。


 投票が始まると、予想通り半数以上がメイド喫茶を選んだ。

 そのほとんどが男子で、女子のうち賛成したのは約25%だった。


 こうして準備を進めることになった。


 リョウコは自分のクラスの担当には選ばれなかった。

 いや、正確には彼女自身が断ったのだ。

 とはいえ、必要があれば手伝うと言っており、時々俺のところに様子を見に来てくれた。


 さて、次に決めるべきはメイド服のデザインだ。

 伝統的なデザインも悪くないが、それでは少し地味かもしれない。


「各自の体型に合わせたサイズ調整が必要だな……」


 そう思いながら、次に考えるのはメニューだった。

 定番のオムライスは良さそうだ。

 注文時に好きな言葉を書いてもらえるのもポイントになるだろう。


 この日は久しぶりにリョウコと昼食を取らなかった。

 彼女も友達と食べているのだろう。


 一日中準備に追われ、帰宅する頃にはすっかり疲れていた。

 帰る前にリョウコにメッセージを送ったが、その直後、彼女が校門で俺を待っていたことに気づいた。

 彼女はすでにメッセージを読んでおり、うさぎの「OK」スタンプを送ってきた。


 俺は階段を降り、彼女のもとへ向かった。

 今日の彼女は比較的時間があったようだが、それでも忙しかったようだった。


「ごめん、待たせたお詫びにジュースでも奢るよ」


 そう言って、自販機へ向かおうとすると——


「それで、ミナミくん。クラスの担当としての仕事はどう?」


 彼女はそう尋ねながら、校門の外へと歩き出した。


「まあ、疲れるけど……やりがいはありそうだな」


「ふふっ、責任感があるのね。それがミナミくんのいいところよ」


 彼女の言葉は、おそらく単なる褒め言葉のつもりだったのだろう。

 だが、俺の頭の中では別の意味に聞こえてしまった。


(いや、そんなはずない。彼女がそんなふうに言うわけがない)


「ありがとう。そっちはどう?」


「そうね……みんなすごく頑張ってるわ。私はあまり手伝えてないけど、みんながすごく努力してるのが分かる」


「そうか。頑張ってな、うまくいくといいな」



「ありがとう。ミナミ君たちにも同じことを願ってるわ。みんなが成功することを祈ってる。それに、あまり一緒にいられなくなりそうね。別に気にしてるわけじゃないけど、ただ……」


「ただ……?」


 彼女は視線を落とし、言葉を選ぶように答えた。


「ただ……君と一緒にいる時間に慣れちゃったの。今よりも、もっとね。」


「つまり、俺のことが好きってこと?」


 リョウコは「勘違いしないで、それは絶対にないわよ」と言わんばかりの目でこちらを見てきた。

 その表情を見た瞬間、彼女の答えが完全に「ノー」だと理解した。

 じゃあ、一体どういう意味なんだ?もしかして、俺のことを好いてるってことなのか?

 その疑問をそのままぶつけてみた。


「それって、俺のことが好きってこと?」


「違うわよ。君とは話しやすいし、一緒にいると楽なんだから。」


 彼女はきっぱりとした口調で答え、それはどうにも覆せそうにな(くつがえせそうにない)い言葉だった。


「なるほど、そういうことか。」


「ええ、そうよ。それに……もし仮に私が君のことを好きになったら、どうする?」


 その問いに、俺は少し興味をそそられた。

 今度こそ、正直に答えるべきか…それとも……。


「それは…きっと、すごく嬉しいと思う。」


 そんな曖昧な答えを返した自分に疑問を抱き、改めて正直に言うことにした。


「冗談だよ。実際のところ、どうしていいかわからないし、何を言えばいいのかも。」


「やっぱりね。最初からそうだと思ってたわ。それに、君って本気でそんなこと言えるタイプじゃないでしょ?」


「俺って、そんな風に見える?」


 彼女は即答した。それも、まるで当然のことのように。


「ええ、そうよ。君のことをよく知るようになったから、そう断言(だんげん)できるわ。」


「そっか……。まあ、それなら仕方ないか。」


「ねえ、私からも質問していい?」


「うん、いいよ。何?」


「もし君が誰かを好きになったらどうする?……つまり、その人のために何か変えたりする?」


 思いもよらない質問に少し戸惑った。

 正直、考えたこともなかった。

 だから、適当に思いついたことを答えるしかなかった。


「うーん……そうだな…きっと、その子のそばにいようと努力する……かな?」


「今の私にしてることみたいに?」


 彼女は何気ない口調でそう言った。


「いや、まだ言い終わってないんだけど……。話の途中で遮らないでくれる?」


「あら、ごめんなさい。でも、続きが気になるわ。私、君の理想に当てはまるかしら?」


 彼女は冗談めかしてそう言った。


 どう見ても俺をからかっているだけなのが分かる。

 ならば、俺もこのまま終わらせるつもりはない。

 仕返し(しかえし)は、彼女が言い終えた後にしてやろう。

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