第01話 - 学校生活
【ビップ、ビップ、ビップ】
「くそ……もう朝か。」
あまり眠れなかった。それでも、準備して学校に行かなきゃならない。
慎重にベッドから体を起こし、まだ体にまとわりつく眠気を振り払おうとした。
「お兄さん、もう起きる時間だよー。」
その声は聞き間違えるはずもない。美翔だ。きっともう登校の準備はできているんだろう。
美翔と茜は、俺とは別の学校に通っている。だから急がないと、後で二人に絡まれて面倒なことになる。
彼女がまるで自分の部屋みたいに入ってくる直前に、なんとか着替えを終えた。
「……あら、もう準備できてたのね。」
「ああ。すぐ下りるから、俺の部屋から出てくれ。」
美翔は素直に頷くと、そのまま部屋を出ていった。
「また今日も学校か……」
朝食を済ませ、弁当を持って家を出る。
学校は電車に乗るほどの距離じゃない。だからいつも歩いて通っている。数分の道のりだが、もうすっかり慣れたものだ。
校門の前に着いたとき、不意に呼び止める声がした。
「おい、佐々木!」
声の主は走りながらこちらに近づいてきた。中学のときからの友達だ。
「……ああ、カズトか。」
「なんだよその反応。まあ、お前は昔からそんな感じだけどな。」
カズトは肩をすくめて笑った。
「あ、そうだ。昨日さ、図書館に忘れ物しちゃってさ。先に教室行っててくれよ。あとで追いつくから。」
彼が歩き出そうとしたところで、俺は肩をつかんで止めた。
数日前から返さなきゃいけない本がある。……ちょうどいい機会だ。
「俺が行くよ。ちょっと用もあるし。」
(それに、新しい本も借りたいしな。)
カズトは手を合わせて、わざとらしく謝る仕草をした。
「マジで?サンキュー、助かるわ。じゃあ後で教室でな。」
俺は軽く頷き、学校の図書館へ向かった。
本を返却カウンターに出していると、誰かが軽くぶつかってきた。
強い衝撃ではない。ただ、急いでいたせいでぶつかったという感じだった。
「すみません、急いでいるので。」
声は柔らかい。ほとんど優しい響きだった。
……だが、どこか妙に冷たい印象もあった。
「あ、いや……」
言い終わる前に、その人物はもう遠くへ行っていた。
振り返ったときには、背中しか見えなかった。
白に近い、わずかに灰色がかった銀色の髪。
柔らかなウェーブを描きながら背中へ流れている。
そして――
どんな男でも思わず目を奪われそうなスタイル。
少なくとも、後ろ姿だけでもそう思わせる雰囲気があった。
彼女はそのまま、本棚の奥へと消えていった。
まあいい。
俺は気にせず、用事を済ませることにした。
結果として、時間通りに教室へ戻ることができた。
教室に入ると、カズトは一人じゃなかった。
隣には別のやつがいて、俺を見るなり嬉しそうに手を上げた。
「佐々木!」
「ああ……タナカか。」
「お前なぁ。相変わらず人形みたいな顔してるな。」
男は笑いながら言った。
「そのうち彼女でもできて、その性格が変わったら思いっきり笑ってやるよ。」
「そうなるといいけどな。」
俺は自分の席へ向かい、鞄を机の上に置いた。
こいつの名前はリオ・タナカ。
カズトよりも先に知り合ったやつだ。……俺の人生でいろいろあった後にな。
二人とも、あの頃突然現れて――
そして、あの日からずっと俺のそばにいる。
ごく普通の、三人の男。
……少なくとも、表面上は。
二人は近くの机へ移動し、なにやら怪しい笑みを浮かべていた。
「おい、佐々木。ちょっと来いよ。」
タナカが後ろの席に座りながら手招きする。
教室にはすでに何人かの生徒が来ていた。
近づくと、二人は悪戯っぽく笑った。
「おい、あそこ見ろ。」
タナカはドアの近くの席にいるグループを、視線でこっそり指した。
女子だけのグループだ。
その中で、彼は一人の少女を示していた。
一言で言えば――美しい。
透き通るような白い肌。
すらりとした体。
柔らかく流れる栗色の髪。
そして、目を引く大きな紫色の瞳。
今まで多くの男子が彼女に近づこうとしたが、誰一人として彼女の興味を引けていないらしい。
「胸見ろよ。でかくね?」
「やめとけって。聞かれたら面倒だぞ。」
「さすがクラス一の美少女、川木陽葵さんだな。めちゃくちゃ可愛いだろ、佐々木?」
「ん? ……ああ、まあな。」
「おいおい、無理やり言わされたみたいな返事すんなよ。」
会話が続く前に、先生が教室へ入ってきた。
「よし、みんな席につけ。授業を始めるぞ。」
生徒たちはそれぞれの席へ戻った。
俺の席は窓際の列の真ん中あたりで、カズトはその真後ろだ。
生徒たちが席につく中、川木さんは自分の机へ向かい――
俺の前の席に座った。
そこが彼女の席だった。
「羨ましいぜ……」
教室の中央あたりの席から、タナカがぼそっと呟いた。
……ああ、なるほど。
授業はいつも通り始まった。
夏はついこの前終わったばかりだというのに、相変わらず耐えがたい暑さが続いている。
昼休みも例外じゃない。
結局、俺たちは三人で教室の中で昼飯を食べることにした。少なくとも、エアコンのおかげで暑さは多少ましだ。
真咲カズトとカズト真咲は、自分の椅子を引きずって俺の机のところまで持ってきて、一緒に弁当を広げた。
二人が弁当を開け、お茶を飲みながら、いつもの質問攻めが始まる。
「なあ佐々木。もう彼女とかいるのか?ほら、夏休みの間にいい感じの女の子と出会ったりとかさ。」
「いや、いない。今は恋愛に興味ないし、そんな時間もない。将来のことに集中しないといけないからな。」
「このままだとお前、将来孤独死するぞ?誰か探した方がいいって。……まあ、その前にその冷たい態度をどうにかする必要があるけどな。」
「カズトの言う通りだぜ。青春なんてあっという間なんだから、楽しんだもん勝ちだろ。そんなロボットみたいな態度してたら、彼女なんて絶対できねえって。」
「なんでそんなに彼女作りたがるんだよ。まずは単位の心配でもしてろ。」
「彼女の話ついでにさ……お前の妹、紹介してくれよ。」
「絶対無理。それに、美翔がお前なんか相手にするわけないだろ。」
美翔は十四歳で、俺たちより一つ下だ。だからリオが気にする気持ちも、まあ分からなくはない。
とはいえ、あいつがそういうことに興味を持っているとは思えない。
それに、こいつはたぶん冗談半分で言っているんだろう。俺が大げさに反応するのを期待して。
「どうやら俺たち三人、まだしばらくは独り身のままだな……あーあ、彼女ほしい〜!」
カズトが大声で叫んだせいで、周りの何人かがこちらを振り向いた。
「おいカズト、紹介できそうな友達とかいないのか?」
カズトは苦笑いを浮かべながら首を振り、カズトの期待をあっさり打ち消した。
結局その話題は、その日一日中、何度も蒸し返されることになった。
午前最後の授業が終わる前、先生に職員室へ来るよう呼び出された。
案の定、内容はいつものやつだ。
部活に入れと、しつこく勧められただけ。
俺は今までずっと、どの部活にも入るつもりはないと言ってきた。本当に興味が持てるものがないからだ。
だが、その返事のせいで、むしろ呼び出される回数が増えている気がする。
校舎へ戻ったころには、もう一日の終わりが近づいていた。空は夕暮れのオレンジ色に染まっている。
あとは教室に戻って鞄を取って、家に帰るだけだ。
だが、ドアを開けると、教室の中に誰かがいた。
「ん?……あ、佐々木ミナミくん、だよね?」
川木陽葵だった。自分の机から鞄を取っているところらしい。
「はい。何か用ですか、川木さん?」
彼女は少し好奇心を含んだ笑みを浮かべながら、ドアの方へ歩いてきた。
「ううん、別に。ただ確認しただけ。……じゃあ、お先に失礼します。また明日ね。」
「はい。」
ドアは静かに閉まった。
「……俺って、そんなに女の子との付き合い方が下手なのか?」
まあ、きっと彼女が言いたかったことも、大したことじゃないんだろう。
その日は、借りたばかりの新しい本を読みながら家に帰った。
ふと本から顔を上げると、気づかないうちにもう家の前に着いていた。
そんな日々が、二週間ほど続いた。
……少なくとも、俺はそう思っていた。
時間が経つにつれて、川木陽葵は少しずつ俺に話しかけるようになっていった。
まるで、最初から俺が彼女の交友関係の中にいるかのように、自然に接してくる。
気づけば、俺たちは少しずつ親しくなっていた。
だが、時々妙な感覚を覚えることがあった。
まるで――
彼女がずっと前から俺を知っているかのような。
……もしかして前世とか、そんな話なのかもしれない。
自分でも理由は説明できない。
それでも、時々その感覚が妙にはっきりすることがある。
彼女の話し方や、ふと向けられる視線で、なんとなく分かるんだ。
けれど――
「佐々木くん、これ手伝ってくれる?」
ゆっくり前を向いた。
窓の外を眺めながら考え事をしていたが、彼女の声で一気に現実へ引き戻された。
目の前には、書類の山を抱えた川木陽葵が立っていた。
言いたいことはすぐに分かった。
席を立ち、彼女に近づく。書類の山を半分受け取り、俺が大半を持つことにした。
「職員室まで運ぶの。担任の先生に提出しろって言われたんだけど、私一人じゃ全部持てなくて。」
俺は黙って頷いた。
一緒に教室を出る。
ちょうど休み時間だったため、廊下は生徒でいっぱいだった。
多くの生徒が、俺たちの方を見ている。
……なんか、気まずい。
それでも視線を無視するように歩きながら、会話を続けた。
「佐々木くん、本当にありがとう。あなたがいなかったらどうなってたか……えへへ。」
「別に大したことじゃない。困ってるみたいだったから手伝っただけだ。」
廊下を歩くにつれて、さらに多くの視線が突き刺さる。
……みんな、そんなに暇なのか?
もっと他にやることないのかよ。
少し前に約束した通り、修正作業を始めました。ストーリー自体や序盤のチャプターは良いのですが、当時は時間がなくて書き方に問題がありました。ようやく時間が取れたので、今はそれにしっかり向き合えています。
読者の皆さんにどう思ってもらえるかドキドキしますが、少しずつ編集していく予定です。もしまた読んでいただけるなら、気長に待ってもらえると嬉しいです。いつも読んでくれてありがとうございます。




