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第15話 木崎 vs ミナミ ファイナル

陽葵とユメもそれぞれのチームのバトンを受け取ると、全力で走り出した。その瞬間、陽葵の表情には「負けるつもりはない」という決意が込められた笑みが浮かんでいた。それを見たユメも同じように微笑み返し、両者の間には熾烈な競争心が火花のように散った。


 ユメと陽葵のファンたちは、彼女たちの走りに興奮し、声援を送らずにはいられなかった。どちらもあまりにも速く、プロのアスリートと肩を並べるほどの実力を持っているように見えた。しかし、相手はプロ級のアスリート。そう簡単には追いつけそうになかった。


「川木さん、頑張れ!」

 陽葵のファンたちは熱狂的に声援を送る。一方で、夢のファンたちも彼女の名前を叫び、同じように応援していた。


 陽葵と夢の競争は熾烈を極め、すでに最後の半周に差し掛かっていた。二人とも全力を尽くし、これまでの走者たちよりも速いアスリートに肩を並べるほどだった。


『この周回で負けるわけにはいかない、あと少し……』

 陽葵は焦る気持ちを抱えながらも走り続けた。


 バトンを渡す瞬間、3人がほぼ同時に到達し、同じ順位で次走者に繋げた。


「絶対に負けるんじゃないわよ。」

 息を切らしながらも陽葵は笑顔でそう言った。


「負けるつもりはないさ。」

 ミナミが余裕のある声で返事をすると、陽葵は彼にバトンを渡した。


 同じく、夢も涼子にバトンを渡す瞬間、何か言葉を伝えた。


「あなたの番よ。負けないで。」


 涼子は静かに頷き、彼女の思いを受け止めると同時に走り出した。ミナミ、木崎、そして涼子。この3人がほぼ同時にスタートを切る。


「佐々木くん、頑張って!」

 陽葵が声を張り上げて応援すると、それに続いて彼らのクラスメートたちも次々にミナミに声援を送る。カズトやタナカもその輪に加わっていた。


 一方、夢も負けじと涼子を応援し始め、彼女のクラスメートやファンたちも大きな声で声援を送った。


 しかし、この3人とそれ以外の走者との間には約7メートルの差があり、後方の選手たちは完全に引き離されていた。


 この最終レースは、予想を超える激しい競り合いとなり、目の離せない展開が続いていた。


 そして、突然のことだった。ミナミが木崎とリョウコを完全に引き離し、これまでのどの選手も見せたことのないスピードで走り出したのだ。3人の間の距離はみるみるうちに広がっていく。


 1メートル……

 2メートル……

3メートル……


 ミナミが先頭を大きく突き放すのを目の当たりにしながら、リョウコはその背中を見つめ、驚きに満ちた表情を浮かべていた。それでも彼女は全力で走り続けた。


 他の観客たちも、リョウコと同じような驚愕の表情でミナミを見ていた。誰一人として、この圧倒的なスピードを信じられなかったのだ。


 ただ一人、木崎だけはその驚きよりも、圧倒的な悔しさに満ちていた。どれだけ優秀な走者を揃えても、彼はミナミに追いつくどころか2位の位置を守るのがやっとだった。


『くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!負けるわけにはいかないんだ、もしここで負けたら……!』

 怒りに飲み込まれそうな思いで、木崎は必死に走り続けた。


 その時、リョウコが木崎を追い越した。彼の苛立ちがさらに増す。


『リョウコに……この俺を追い越すだと?そんなこと、夢にもありえない!』


 木崎は必死にスピードを上げ、リョウコを追い抜こうとしたが、彼女との差は約1メートル以上広がり続けていた。


 レースは終盤に差し掛かっていた。ミナミはゴールまで残り約18メートル、リョウコは25メートル。その間の距離はさらに大きく広がっていく。


 それでもリョウコは必死に走り続け、再びミナミとの距離を少しずつ縮めていった。


『ミナミ君、どうして…どうしてそんなに速いの?いつからそんな力を持っていたの?聞きたいことが山ほどあるのに……』


 彼女の心の中は、ミナミへの驚きと疑問でいっぱいだった。


「ミナミ君、あなたにすべての質問を聞くことができるかしら?」


 リョウコの頭の中でそんな疑問が渦巻く中、彼女の横を木崎が追い抜いていった。その顔には興奮とアドレナリンに満ちた笑みが浮かんでいた。


 限界を超えることで、可能性を広げるという感覚。それが今、木崎の身体を支配していた。


『えっ?私、抜かれた……?』


 ミナミは相変わらず大きなストライドで走り、まるで空間を飛び越えるかのようだった。しかし、少しずつ木崎がその背中に迫りつつあることには気づいていなかった。


 とはいえ、もう遅い。ゴールはほぼ目の前にあり、追いつくのは不可能な状況だった。


 ミナミの姉たちも、彼の教室の窓からレースの様子を見守り、ミナミが勝利を目前にしている姿に目を輝かせていた。


 そしてその通り、ミナミがゴールに到達。木崎との間に約7メートルの差をつけて見事に優勝を果たした。


「やった!お兄ちゃんが勝った!」

 茜は小さく跳びながら、満面の笑みを浮かべて喜んだ。


 一方、美翔は特に派手な反応を見せず、「さすがお兄様ね」と少し誇らしげな笑顔で静かに言葉を漏らしただけだった。


 ミナミのクラスメートたちも、彼の驚異的なスピードについてざわざわと話し合っていた。


 さらに、女子たちの間でもミナミの速さは話題となり、皆が驚愕していた様子だった。


 そして、全員がゴールに到達。ミナミが1位、木崎が2位、そしてリョウコが3位という結果に。


 その後、レースの主催者がマイクを持って言った。


「リレー競争の優勝チームは1-Bのクラスです!」


 アナウンスが響くと、1-Bの生徒たちはこの大勝利に大喜びし、歓声を上げながらお互いを祝福し合った。


 一方で、他のクラスの生徒たちの間では、ミナミについての話題で持ちきりだった。


「知らなかったよ、あの子が明人先輩より速いなんて。今なら理由が少し分かるかも。」


 その会話を近くで聞いていた茜と美翔は、ミナミについて語る言葉に誇らしげな表情を浮かべていた。


「確かにね。これでどうしてサワタリさんと付き合ってるのか少し分かる気がする。」


「お兄ちゃんが誰かと付き合ってるの?」

 二人は同時に目を見開いて驚き、声を揃えて言った。「一体誰?」


「誰だと思う?」


「分からないけど、たぶんバトンを渡してくれたあの子じゃない?」

 美翔は考え込むように眉を寄せながら答えた。まるで答えは出ているが確信を持てないような表情だった。


「それもあり得るね。他の理由でこんなふうに話題になるはずがないし、それにお兄ちゃん、あの子とはとても仲が良さそうだし。」


 その時、陽葵はちょうどミナミと話していた。少し離れた場所から、茜と美翔はその様子をじっと見つめていた。


「まさか佐々木君があんなに速いなんて、誰も予想してなかったわ。本当に驚いたわよ。」

 陽葵は大きな笑顔でそう言い、ミナミの顔を見上げて、その瞳を真っ直ぐ見つめた。


「本当ですか?」


「もちろんよ!」

 彼女は元気よく答えた。


 すると、ミナミは突然どこか遠くを見つめ始めた。そこには彼の姉たちの姿があった。


「どうしたの、佐々木君?」

 陽葵もミナミの視線の先を追いかけた。「あら……知り合い?」


 茜と美翔はすぐに目立った。私服姿でいたためだ。しかも、この日は彼女たちの学校の運動会がすでに終わっていたため、自由に来ることができたのだった。


「ええ、僕の姉たちです。」


「やっぱりね。ちょっと待ってて、すぐ戻るわ。」

 そう言い残し、ミナミは姉たちのほうへ向かった。


 ***


「ほら、こっちに向かって来てるよ。」

 茜が美翔にそう言うと、美翔は一瞬陽葵のほうへ視線をやった。


「どうするべき?」

 美翔は驚いた様子で尋ねた。


「何もする必要ないわ。それより、こんなに可愛い子がどうして私たちの冷たい兄と一緒にいるのか、気になるじゃない。」


「そうね……確かに。」


 その時、陽葵が二人のもとへ近づき、優しい笑顔で挨拶した。


「こんにちは。」

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