第14話 木崎 vs ミナミ パート2
彼らはミナミを待ち構えるべく屋上へ向かい始めた。
「なあ、カノ。なんで俺たち二人がかりで、あんなチンケなやつを始末しなきゃいけないんだ?」
「黙って命令に従え。」
『それにしても妙だな……なんでわざわざ二人も使うんだ?まるで、何かに怯えているみたいじゃないか。』
「なあカノ、やっぱり変じゃないか?一人相手に俺たち二人だなんて。」
「まあな。でも、こんなの初めてじゃないだろ。覚えてるか?最初に二人であの弱っちい奴を潰しに行った時のことをさ。」
カノは薄く笑いながら答えた。
「ああ、もちろん覚えてるさ。今回も前回みたいに時間を無駄にさせられるだけかもな。」
「そうだな。今回も同じパターンかもしれない。」
そう話しながら階段を上がるヒビトとカノ。しかし、ふと顔を上げると、そこにはミナミが立っていた。
「カノ、カノ、あいつ……写真の奴じゃないか?」
ヒビトは軽蔑の眼差しでミナミを見ながら言った。
「間違いない、あいつだ。」
カノも同じようにミナミを睨みつけた。
「安心しろよ、小僧。俺たちは手加減してやるからな。」
「お前たちは誰だ?」
ミナミは一切動じず、その場に立ち続けた。
「落ち着けよ、名乗る必要なんてないさ。お前はすぐに終わるからな。」
そう言うと、カノはミナミに向かって勢いよく突進した。
その間、ヒビトは不敵な笑みを浮かべていたが、その笑みはすぐに驚きへと変わった。ミナミが左手一本でカノの全身を受け止めたのだ。
「お前たちは誰だって聞いてるんだ。」
ミナミはカノの頭を掴み、その進撃を完全に封じたまま冷静に言い放った。
カノは必死にミナミの顔を殴ろうとしたが、何度試みても拳は虚しく空を切るだけだった。
その様子を見たヒビトも、ついに行動を起こした。ミナミに殴りかかるが、その攻撃もすべて回避され、いとも簡単に無力化された。
「くそっ!この野郎、まるで弾丸みたいに動きやがる。こんなスピード、見たことがねえ……なるほど、だから俺たち二人を送ったのか。」
「教えてくれないのか?まあいい、急いで片付ける。時間がない。」
ミナミは冷静に言い放ち、カノに向かって拳を繰り出した。一撃で顎を捉えると、続けざまにもう一方の顎にも拳を浴びせた。その後、体をひねりながら放った回し蹴りがカノの側頭部に炸裂し、カノは意識を失いその場に崩れ落ちた。
「カノ、てめえ!この野郎!」
ヒビトは怒り狂いながら、何度も拳を振り回した。しかし、どの攻撃もミナミには届かない。それどころか、ミナミは一瞬の隙をついてヒビトの胸に連続の打撃を叩き込み、最後に上へ向けて強烈なアッパーカットを繰り出した。
さらに、横蹴りでヒビトの脚を狙い、バランスを崩させたところで右足で強烈な蹴りを胸に入れる。その衝撃でヒビトは数メートル後ろの壁に叩きつけられ、そのまま倒れ込んだ。
すべてはわずか3分足らずで終わった。その光景はまるで感情を一切持たない戦闘マシンのようだった。
「くそっ、こいつ……強すぎる!何でこんな怪物と戦わせるんだよ、明人さん!」
「やれやれ、少し時間を無駄にしたな。行くとしよう。」
ミナミは何事もなかったかのようにその場を後にし、階段を下りていった。その表情や息遣いには、一切の疲れが見られない。まるで軽い散歩のように振る舞い、リレーの会場へ向かった。
一方、先ほどカノとヒビトを呼び出した生徒は、階段を下りていくミナミの姿を目にして、信じられない思いに駆られていた。
「え?なんでだ?ありえない……いや、まさか、そんなはずは……」
そう独り言を呟きながら、その生徒も学校の中へと消えていった。
一方、ミナミはすでに他の人たちのところに向かっていた。
「随分遅いな。イベント開始まであと5分だぞ、分かってるか?」
「分かってるよ、大事なのは時間内に間に合うことさ。」
『もしこのレースで負けたら、リョウコを諦めなければならない。彼女は俺が欲しいものを持っている。彼女を失うわけにはいかない。この状況では“あれ”を使うしかない。』
リレー競争が始まるぞ! 全員、位置につけ!!
ナレーターがそう言うと、全員がリレーの位置についた。しかしー······何かがおかしかった。これは完全に予想外だった。リョウコがこの競争に参加していたのだ。
さらに、2-C組の選手たちはプロのアスリートだったが、この学校の生徒ではない人々がリレーの競技者として代役を務めていたのだ。
1-B組ではカズトが最初に走る予定だった。その次はタナカ、そして唯一の女子選手である陽葵が3番目だった。本来なら女子選手は2人いるはずだったが、タナカがトレーニング中に足を骨折した1人の代わりを務めることになった。
一方、1-A組ではリョウコのクラスで、こちらは男子2人と女子2人の構成だった。女子選手はユメとリョウコだった。
数分前、陽葵はカズトとタナカに話しかけていた。
「ねえ、あそこの女の子、見える?」
陽葵は視線で示しながら、かわいらしい女の子たちの方を見ていた。一人は明るい茶髪、もう一人は深い黒髪をしていた。
「ヨシコとユメちゃんのことを言ってるのか?」とタナカが困惑した表情で尋ねた。彼女たちの名前を挙げた意図がわからなかったようだ。
ユメは黒髪のかわいらしい女の子で、一方、ヨシコは明るい茶髪の女の子だった。
「そう、あの二人のことよ。でも特にユメさんのこと。彼女は陸上競技の天才よ。全力で彼女に勝つために頑張ってほしいの。もちろん、他の相手にも全力でね。私は全速力で佐々木くんにバトンを渡すつもりだけど、いい?」と陽葵はまるで本気のスピーチのように、真剣かつ正確に言った。
「わかった、全力を尽くすよ。」
「ふふ、僕もだよ、タナカ。全力を尽くす。」
「その意気よ、みんなで全力を出し切りましょう!」
そして現在、全員がそれぞれのポジションにつき、あとはリレー競争のスタートを待つだけだった。
担当の教師は競技用ピストルを手に持ち、それを高く掲げた。
最初に走る生徒たちはすでに準備万端で、片腕を前に、もう片腕を後ろに引き、ロボットのような構えをしていた。足も同じく腕の動きに合わせて構えていたが、右足はスライドするような姿勢をとっていた。
「位置について、よーい……」そう言うと、教師はピストルを上に向けて発砲した。
学生たちは一斉に走り出した。当然のように、木崎のチームの男子が先頭を走り、それを追うようにカズトが懸命に食らいつき、そのすぐ後ろにリョウコのクラスの男子が迫っていた。他のチームの選手たちは少し遅れた位置を走っていた。
しかし、次第にカズトとリョウコのクラスの男子は徐々に後れを取り始めた。それでもカズトは全力で走り続け、タナカにバトンを渡すために一歩でも速くゴールに向かおうと必死だった。
最終的に、1位でゴールしたのは圧倒的な差をつけた木崎のチームのアスリート。2位には別のクラスの男子が続き、その差は約10歩。その後、リョウコのクラスの男子が3位でゴールし、最後にカズトがゴールラインを超えた。
タナカはバトンを受け取ると、カズトを凌駕するスピードで走り出し、次々と前の走者を追い抜いていった。
『行け、行け、行け、行け!』
カズトは心の中で何度も同じ言葉を繰り返しながら、全力を振り絞って走り続けた。タナカが陽葵にバトンを渡す頃には、順位は3位まで上昇し、リョウコのクラスの走者とほぼ同時にゴールした。
一方、木崎のチームのアスリートは再び1位を守ったが、今回は以前よりもその差が縮まっていた。
そして第3走者たちが走り出す時が来た。木崎のチームの第3走者は陽葵とユメに対して4歩のリードを保った状態でスタートを切った。




