第12話 リョウコの疑念と苦悩
歩き続ける前に、お姉ちゃんがそんなに楽しそうにしてるのを見て、あの件について話すことにした。
「お姉ちゃん、また髪染めたの?そろそろやめたほうがいいと思うよ。」
「やだね~。私はこれが好きなんだから。それに、仕事にも大事なんだよ。」
そういえば、前に仕事の仲間から「かっこいい」って言われたって言ってたな。
私から見ればただの不良っぽいだけだけど、それを言うつもりはなかった。
仕事の仲間によると、すごく自然に見えるらしくて、本物の髪色だと思われてるんだとか。
「もう、リョウコ。ただ脱色すればいいだけだよ。あなたのはちょっと特殊なケースだけど…」
「うん、知ってる。小さい頃から少しずつ色が変わってきてるんだよね。」
「そうそう!だからちょっとだけ染めてあげたんだよ、変に見えないようにね!おかげで自然な髪色に見えるんだから、感謝してよ、ははは!」
「……やっぱり、なんか変な感じがするよ。」
お姉ちゃんはそれ以上何も言わず、振り返りもせずに自分の部屋へ行ってしまった。
時間を無駄にせず、シャワーを浴びて高校へ行く準備を始めた。
一階に下りると、もう弁当は準備してあった。
お姉ちゃんは食堂に座って、まだパジャマ姿のまま、スマホをいじりながら朝食を食べていた。
私の視線を感じて、彼女は顔を上げた。
「お姉ちゃん、行ってくるよ。今日は仕事ないの?」
「あるよ、でもまだ早いしね。それに私の学校はあんたより近いし、今年が最後の年だし。」
「そうなんだ…じゃあ、行ってくる。」
それ以上言うこともなく、玄関に向かった。
でも、また声がかかった。
「待って。木崎から電話があって、学校で話したいことがあるんだって。何かあったの?」
その質問には好奇心が混ざっていて、彼の名前を聞いただけで興味が湧いたように見えた。
「別に何もないよ。じゃあね、お姉ちゃん。」
「うん、気をつけてね。あ、そうだ…」
お姉ちゃんが何かをつぶやいた。
「ミナミくんと花美によろしくね。」
「え?ミナミくんのこと?」
彼女は指をさした。まるでそれが答えだと言わんばかりに。
「そうそう、ミナミくんによろしくね!」
「どうして彼のこと知ってるの?会ったことあるの?」
彼女は小さく笑った。
「秘密だよ。いってらっしゃい~。」
怪しいけど、そんなことに時間を割いている暇はなかった。
家を出て、その疑問を抱えたまま車に乗り込んだ。でも、あまり深く考えるのはやめた。
今日も彼に会うはずだ。いつもの公園で。少なくとも、もうそれが習慣になりつつあった。
* * *
到着すると、運転手に速度を落としてもらい、周囲を見回した。
すぐに見つけた。
彼はそこに立っていた。あの虚ろな目で、ただ道を見つめながら、何かの到着を待っているかのようだった。
車が十分に近づくと、彼は開いた窓に視線を落とし、かすかに聞こえる声でつぶやいた。
「今日は歩いていきたいんだ。」
その言葉に心の中で戸惑ったけど、外では真剣な表情を崩さなかった。
答えようとしたその時、遠くから女性の声が聞こえた。
「佐々木く~ん!」
その声は私たちの方へ向かってきていた…いや、ミナミくんの方へ。
昨日のあの子だった。輝くような笑顔で、目立つタイプの子に見えた。
おそらく彼女のことがあって、歩いていきたいと言ったんだろう。
まあ、別にどうでもいいけど。
小さくため息をついて、彼の願いを飲み込んだ。
でもまた、彼女が先に口を開いた。
「おはよう、佐々木くん。」
彼女は軽く跳ねるような動きを止めて、自然に笑った。
「おはよう、川木さん。」
彼の返事は、もう慣れたあの冷たい口調だった。
なぜか、それだけで胸の奥が少し軽くなった。
馬鹿げてる。
数秒後、彼女が車の方を見て、その表情が一変した。
「ごめん、何か邪魔しちゃった?」
彼女は頭を下げて謝った。
「ううん、何も邪魔してないよ。ミナミくん、後で話したいことがあるの。」
彼はうなずいた。
「うん、またね。」
よし、これ以上言うことはない。
運転手が私の意図を理解したかのように、車はゆっくりと動き出した。
……………
…………
………
◇◆◇◆◇
車が遠ざかっていくのを見送った後、川木さんがどうしても聞かずにはいられないといった様子で俺を見た。
「それで、クラブのこと、彼女に話せた?」
「え?ああ、いや。その話は何もしてない。というか、完全に忘れてた。後で話してみるよ。」
彼女は疑わしそうに見つめてきたが、今はどうしようもないと悟ったのか、仕方なく受け入れた。
「早くしたほうがいいよ。彼女がクラブに入るのはいいことだと思う。学校で一番賢い人の一人だし。」
「そんなに賢いのか?まあ…テストでいい点を取ることが、必ずしも一番賢いってことにはならないけどな。」
「それはそうだけど、彼女はちょっと違うのよ。」
「違う?どういう意味だ?」
「本当に気づいてないの?」陽葵は驚いたように目を見開いた。
「ああ、何も気づいてないよ。で、何が彼女をそんなに特別だって言うんだ?」
「それは自分で見つけてみなよ、佐々木くん。」
そう言われると、ますます特別な人間に思えてくる。
……くそっ。
やっぱりやってみるべきか。
疑問を解消するには、それしかない。
何も失うものはない。そう思いながら、学校へ向かって歩き続けた。
◇◆◇◆◇
ミナミくんと会ってから数分後、車が止まった。
降りようとした時、後ろにもう一台の車が停まっているのに気づいた。
すぐにそれとわかった。
間違いなく、木崎だ。
あの嫌な目つきと笑顔が、またそこにあった。
選ぶ余地はなかった。周りの生徒たちの視線を感じながら、ドアを開けた。
車を降りると、彼はまるで待っていたかのように近づいてきた。
すぐにざわめきが広がった。
彼は私の前で足を止め、余裕そうな笑みを浮かべた。
「おはよう、リョウコさん。こんなに早く会えるなんて、偶然だね。」
これを偶然呼ばわり?ストーカーの間違いだろ?
……くそっ。
でも、彼のペースに乗るしかなかった。
「まあ、木崎さん、おはようございます。折角ですし、姉が伝えてほしいって言ってた用件を教えていただけますか?」
彼は待ってましたと言わんばかりに、耳まで裂けるような笑みを浮かべた。
ゆっくりと近づき、嫌らしい笑みを浮かべて耳元でささやいた。
「もちろん。でも、それは後で…授業が終わってからだ。」
その答えに、苛立ちが抑えきれなかった。
「どうして急に時間を変えたの?」
「大した理由はないよ。」
「そんなこと言わないで。学校で会ったらすぐに伝えるって、姉に言ったって知ってるんだから。」
「わかってるさ。でも、彼がいる時に話したいんだ。その方がいいだろ?」
「……」
そう言い残して、彼は自分の「友人」たちのところへ歩いていった。そう呼べるなら、だが。
私も時間を無駄にはできない。
ドアを閉め、運転手に戻るよう合図した。
一歩踏み出した時、前によしこちゃんとユメちゃんが待っているのが見えた。
「おはよう、リョコちゃん~」よしこちゃんが保護者のような笑顔で言った。どうやら最初から全部見ていたらしい。
一方、ユメちゃんは後ろから飛びついて抱きついてきた。
「おはよう、リョコちゃん。」
木崎のことで苛立っていた気持ちが、二人の顔を見て少し和らいだ。
「おはよう、二人とも。」
教室へ向かって歩き始めたが、頭の中はまだ木崎のことでいっぱいだった。
こんなに待たせる価値があるといいけど。
* * *
授業は普通に始まった。でも、不安はどんどん大きくなっていくばかりだった。
昼休みになって、歴史の授業が終わった直後、私は教室を飛び出した。
彼の教室の前まで来て、迷わず中に入った。
時間を無駄にしている余裕はなかった。
彼の手首を掴み、反応する間も与えずに中庭へ連れ出した。
何も説明しなかったし、彼も何も聞かなかった。
* * *
中庭に着いて、彼が何か言う前に、先に口を開いた。
「何でかは聞かないで。とりあえず、彼を呼ぶから。」
彼がうなずくのを確認して、スマホを取り出し、木崎にメッセージを送った。ミナミくんと一緒に待っていると。
[もう着いてるよ。裏庭で待ってるから。]
そう書いてすぐにLINEを送った。
木崎は承諾し、あとは彼が来るのを待つだけだった。
「……で、説明してくれるの?」
「彼が来てからだ。私も詳しくは知らない。」
「じゃあ、ただ待つだけ?」
「ああ、待つしかない。」
それから、日差しを避けて木の下に立った。
二人の間に、次第に気まずい沈黙が流れ始めた。
ちょうどいい機会かもしれない……彼女のこと、聞いてみようか。
「なあ……ミナミくん。今朝一緒にいた子、誰なの?」
自分でもなぜそんなことを聞いているのかわからなかったけど、どうしても気になった。
「川木さんのことか?クラスメートだよ。どうして聞くんだ?」
なぜか、ほっとした。
理由はよくわからないけど……それでも、聞かずにはいられなかった。
しばらくして、誰かに見られているような感覚が強くなった。
その方向に目をやると、遠くから彼が来るのが見えた。
表情は落ち着いていて、すべてを計算し尽くしたかのようだった。
「やあ、来たよ。待たせたな。」
あの朝と同じ、作り笑顔を浮かべて言った。
あの笑顔を見るたびに、殴りたくなる。
でも、本当にやったらどうなるかわかってる。
今は我慢するしかない。
彼に構っている時間もないから、さっさと本題に入った。
「それで、何が言いたいの、木崎?」
「まあ、気になってるんだろうな。」
気になってる?
彼が偉そうにしているのを見て、思わず拳を握りしめた。
「じゃあ教えてやろう。実はな、俺は自分のクラスの代表として走らないんだ。」
何を言ってるんだ、このバカは。
「じゃあ……どうするつもりなの?どうやってミナミくんに勝つつもり?」
「ふふふ。俺は自分のクラスじゃなくて、1-Aのクラスの代表として走ることにしたんだ。」
他のクラスの代表?
でも1-Aって、一番速い連中が集まってるクラスじゃないか。
それって……
「それってずるいよ!1-Aの選手はほとんどアスリートだよ!ミナミくんが勝てるわけないじゃないか!」
「ずるい?ただ他のクラスを手伝ってるだけだ。何も悪いことじゃないだろ。それに――」
ミナミくんを見ると、彼の言葉に全く動じていないようだった。
「リョウコ、好きにさせておけ。勝っても負けても、最後に勝つのは俺だ。」
「ふざけないで!どうやってアスリートばかりのチームに勝つつもりなの!?」
「まあ、見てろよ。結果はすぐに出る。」
「どういう意味だよ……バカ。」
自分の力のなさに苛立ちながら、そう呟いた。
一方、木崎は楽しそうに笑い始めた。
「純粋だな。まさか勝てると思ってるのか?まあ、夢を見るのは自由だ。精々頑張れよ。」
「その結果、見せてもらうよ。」
ミナミくんはそう言って、何事もなかったかのように背を向けた。
そうして、あの話は終わった……
……
* * *
それから数日が経った。
まだ彼の決断に戸惑っていた。
どうやってあいつらに勝つつもりなんだ?何か隠し事でもあるのか?
机で宿題をしながら、そんなことばかり考えていた。
彼も速いけど、ミナミくんは……
できるかどうか、確信が持てなかった。
もしかしたら……電話してみようか。
一瞬迷った。特に理由もなく顔が熱くなる。
作戦を聞くのが恥ずかしいのかもしれない……
「迷ってる時間はない。やるしかない。」
自分でも驚くほどの決意で、すぐに番号を押した。
すぐに出た。
[もしもし、どうした?]
[別に大したことじゃないんだけど……ちょっと気になって。]
ベッドに横になって、少し落ち着こうとした。
[何がだ?もしレースのことなら、数日したらわかる。でも、今は何も言えない。]
[えっ!?なんで!?]
[ただ言えないだけだ。じゃあな。]
[ちょっと待って……!]
ミナミは切ってしまった。
「はぁ……バカ。なんで私だけが何も知らないの?」
前よりもイライラが募るばかりだった。
なんでそんなに秘密にしなきゃいけないんだ?
ミナミくんの……バカ。




