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第107話 交換条件 2

この章には『時を超えた少女は僕の彼女だと言い、さらに高校で一番人気の女の子になった。』の登場人物が含まれています。


 だからこそ、お兄様もまた同じ道を選んだ。それ以上のことは分からない。ほかの出来事の記録を持っているのは、リョウコとお兄様、そして「パパ」だけだ。


 パパ──全知全能の存在。すべてを内包し、同時に一つでもある存在。この世界のあらゆる出来事を知っている、唯一無二の存在。


 完全なる存在。万物のすべての側面を象徴し、この世界で起きるすべての意味を理解している、ただひとりの存在。


 彼は彼らが誰であるかを知っているだけでなく、彼らの誕生から死に至るまで、すべてを見通している。それは恐ろしくもあるが、彼のような存在にはふさわしい力でもある。


 天野くんも私も、それを知っていた。でも同時に、彼が真実を語ることは決してないことも分かっていた。だから私たちは、一度たりともそのことを尋ねようとはしなかった。


 しばらく沈黙が続いた。私も天野くんも、何も言葉を交わさなかった。……ちょうど、ハンバーガーにもう一度かぶりつくにはいいタイミングだった。


 私はそれを手に取り、夢中でかぶりついた。すでに一つは食べ終わっていて、残るはこれ一つだけだった。


 一方、天野くんは何やら考え込んでいた。でもまあ、さっきのあの鋭くて気まずい視線よりはマシだったけどね。


「十ヶ月前に、俺がやったことを話してやるよ。」


 その言葉に、まるで好奇心旺盛な子どものように、彼の視線が私に戻ってきた。


「数ヶ月前の話だけど……あ、その前にちょっと待って。まだこの話を読んでない人もいるかもしれない。でも、読んでたとしても、本編にはあまり関係ないから大丈夫。面白いから、ぜひそっちも読んでみてね! ……ちゃんと警告したからね!」


「なあ、マリー。『彼ら』って誰のことを言ってるんだ?」


「ん〜、気にしないで。これは読者さんに向けて言ったの。きっと興味あると思うの。でも、さて……始めましょうか?」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 あの頃、お兄様の気配が消えたとき、私は『螺旋の体』を作り上げ、世界を監視していた。特に明確な目的があったわけじゃない。ただ、何か面白いものを探していただけ。


 そうして私は、止まることのない時間の流れの中を、しばらく彷徨い続けていた。


 その中で、ある一人の少女と出会った。彼女は高校生で、長い間、愛する人のそばにいた友人だった。


 想いを伝えることへの恐れはあまりにも大きく、彼女は一度も気持ちを打ち明けようとはしなかった。しかし、彼のそばを離れたとき、彼女の心にはぽっかりと穴が開いた。


 家に帰っても、彼のことばかり考えていた。そしてある日、それは起きた──別の少女が、彼女より先に彼に告白したのだ。彼女がずっと恐れていたことだった。


 その事実を知り、彼女は深く傷ついた。でも、彼もまた同じ想いを抱いていたことを、彼女は知らなかった。そして返事をする時が来たとき、彼はその子をやんわりと断った。


 彼女は、自分が拒絶されたとは知らず、少しずつ告白する勇気を積み重ねていた。


 そしてあの日。校庭で、すべてが始まった。


 彼は彼女の告白を受け入れ、彼女はまるで人生最大の勝利を手にしたかのように喜んだ。


 ──すべてが崩れたのは、私に出会ったあの日だった。


 それが、終わりのない輪廻の始まりだった。


 その日、私は彼らの前に現れた。彼らにとって私は、触れることすらできない『幽霊』だった。


『その日、彼は交通事故に遭った。そして、『時を旅する少女』が生まれた。』


 彼女がその死を目の当たりにしたとき、それは──まるで「終わり」が目の前に現れたかのようだった。


 彼は――彼女にとって、すべてだった。

 彼がいなければ、未来なんて……存在しない。


 彼女はその身体に近づいた。

 地面に倒れている彼のまわりには、事故の衝撃に言葉を失った人々が、少しずつ集まり始めていた。


 彼女はそのそばに膝をつき、涙を浮かべながら彼の手を握り、自分の胸の上にそっと置いた。


 何もできない。何の手立てもない。

 ただ、彼のそばにいたい――その気持ちだけが、胸いっぱいに広がっていた。


 私は決めた。

 彼女の心の中に入り込むと、そこは真っ白な空間だった。

 時間も空間も流れていない、静かで、どこか懐かしい場所――。


 彼女の声はかすれていて、うつむいたまま涙が頬を伝っていた。

 その姿を見て、私の心にも痛みが走った。


「どうして泣いてるの? ……何かあったの?」


 彼女の声を聞きたくて、思わず問いかけた。

 この状況でそんな質問は愚かかもしれないけれど、それでも――。


 彼女は視線を上げず、震える声で答えた。


「……圭くんが……私のせいで……死んじゃったの……!」


「彼は、あなたにとって……どんな存在だったの?」


 彼女はすすり泣きながら、そっと涙をぬぐい、ぽつりと答えた。


「……とても大切な人……世界で一番、愛してる人……。」


「立ち上がれる?」


 彼女は静かに立ち上がった。

 そして私を見上げた瞬間、その表情にわずかな驚きが浮かんだ。

 けれど、その奥にある深い悲しみは、まだ消えていなかった。


「……ごめんなさい。あなたは……誰? ここはどこ……? まさか……神様……?」


 この空間の不思議さに加えて、私の服が全身真っ白だったせいか、彼女はそうつぶやいた。


 私は彼女を不安にさせたくなくて、何も言わずにただ、静かにうなずいた。


「……さっきのこと、本当に辛かったでしょう。でもね、今からあなたに一つ、提案したいことがあるの。」


「……提案?」


「うん。選ぶのは……あなた自身よ。」


「……どういう意味? よく……分からない……。」


 彼女が話を受け入れる気配を見せたとき、私は心の中で小さく微笑んだ。

 ――完璧な計画だった。


「さっきの出来事――あの、愛する彼との別れ。それを……なかったことにしてみたいと思わない?」


 彼女の瞳に、光が戻った。

 わずかに差し込んだ希望の光が、彼女の表情を柔らかく照らした。


「……本当に……圭くんに、また会えるの? そんなこと……できるの?」


「ええ、できるわ。でも――その代わりに、あなたにはある任務を果たしてもらう必要があるの。」


 彼女は一瞬だけ戸惑ったが、やがてその迷いは消えた。

 そして、決意に満ちた瞳で言った。


「……私は……すべてを受け入れます。圭くんにもう一度会えるなら……それでいい。」


 その強さを見て、私はもう一度、静かに微笑んだ。

 ――彼女になら、きっと託せる。


「分かった。あなたの願いを叶えましょう。

 与えるのは、『時間を超えて別の世界へ行ける力』。

 数多く存在する並行世界の中で、あなたに探してほしいのは――


 ある少年と、少女。

 彼らは、無限に広がる世界のどこかに生まれ変わっている。」


 魂は、一つの世界にしか存在できない。

 だけど、肉体だけなら……並行して存在している可能性がある。

 だから、彼らの『別の姿』に出会えるかもしれない――。


 彼女はうなずいた。そのまなざしは、なぜか私に安心感を与えてくれる。私はそっと手を彼女に差し出した。すると、まばゆい光が彼女を包み込んだ。


 彼女は落ち着いた様子で立ち上がり、しばらく手を動かしながら何かを確かめようとしていた。しかし、外見には何の変化も見られなかった。


 この力は肉体を変化させるものではなく、彼女の耐久性や身体能力を向上させるものだった。


 少なくとも、すぐに目に見える変化はなかった。もし彼女がそれぞれの世界で過ごす時間に合わせて生きると決めた場合、引退する時には外見をリセットすることも可能だ。


「これからよろしくね、白鳥さん。彼らを見つけたらすぐ知らせて。私の方が先に見つけたら、こっちから連絡する」


「はい、本当にありがとうございます、女神様。この力、正しく使わせていただきます」


「……実は少しだけ嘘をついたの。私は『女神』じゃなくて、そう呼ばれる存在に近いだけなの」


「えっ、そうなんですか? でも……私にとっては助けてくださった女神様ですから」


「う〜ん……そう言われると、否定できないわね」


 彼女はしっかりとうなずき、それからしばらく沈黙が続いた。


「じゃあ、またね。頼りにしてるわ、白鳥さん。また会いましょう」


 私はその場から一歩も動かず、少しずつ彼女から距離を取っていった。彼女はそのまま動かずに立ち尽くしていた。あれが、私と彼女が初めて交わした会話だった。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 語り終えた私は口を閉じた。天野くんはじっと黙り込み、言葉の一つ一つを噛みしめるように考えていた。


「つまり……その人って、君の友達ってこと?」


 私は思わずため息をついた。そんな結論に至ったことが、少し残念だった。彼はそれを察したのか、困った顔で聞き返した。


「えっ、もしかして違った?」


「ほんとにバカね。あれだけ話したのに、何も理解してないなんてありえる?」


「ご、ごめん。こういうの、推測するの苦手でさ……」


「まったくもう……しょうがないわね。はっきり言うけど、あの話で伝えたかったのは、『この世界は唯一無二』ってこと。彼らの魂はここにしか存在しない。だから死ねば、『New Time』に戻るってことよ」


 ようやく彼の目に理解の色が浮かんだ。正直、こんな単純なことに気づくのが遅すぎて驚いた。私より知識があるはずなのに。


「そ、それ……それなら、さっき俺もちょうど思ってたとこ!」


 さっきまでの緊張や自信満々な態度は消え、普段通りの彼に戻っていた。


「さっき、『何言ってるかさっぱりわからない』って言ってたくせに……」


 私は冷ややかに言い返したが、彼は子どものようにニヤリと笑った。


「……まあ、今伝えられるのはそれだけ。これ以上、私から言えることはないわ」


「なるほど、ありがとう、高宮さん。それだけでも十分ありがたい」


(そういうことだったのか……でも、あの時『神』が言ってたあれの意味が、むしろもっと分からなくなったな)


「さて、そろそろ行くよ。すごく興味深い話を聞けたし、高宮さんにも用事があるだろうし。有名人は暇じゃないよね?」


 彼は立ち上がった。私は座ったまま。会話はまだ終わっていない気がしたけど、彼が行きたいなら、それでいい。


二度どころか三度も考えた末、私は立ち上がった。これ以上、彼に知られたくなかったし、情報のやり取りはもう十分だった。


「じゃあ、私も行くね。ここに一人でいても仕方ないし、やることもあるから。」


バッグを手に取り、その場を後にした。もう話すこともなかったし、正直、これ以上ここにいる理由もなかった。


真っ先に思い浮かんだのは、自分の部屋に帰ること。でも、背を向けて歩き出したそのとき、彼の声が後ろから聞こえてきた。


「高宮さん。」


少し戸惑いながらも、私は声の方へ振り返った。


「はい? どうかしましたか?」


一瞬、何か大事な話でもあるのかと思って、私は内心、期待してしまった。


「……ちょっと、お金貸してくれない? 今日、あんまり持ってなくてさ、へへ。」


「……なんだ、そんなことだったのね。」


拍子抜けだった。


「それってどういう意味?」


「別に、何でもない。気にしないで。それで、いくら必要なの?」


彼は少し恥ずかしそうに、近づいてきた。きっと、遠くから大きな声で言うのが嫌だったんだろう。


「五百円だけでいいんだ。」


彼には、私が落胆したのが分かっていたはず。それに、さっきも言ったけど、もう私にできることといえば、お金を渡すくらい。すぐに返してくれればそれでいいし、今は別に返してくれなくても構わない。どうせ近いうちにまた会う。あの人とリョウコと一緒に。


「すぐ返すから。本当に、ごめんね。」


「いいよ。返さなくていい。私が食べた分ってことにしておいて。」


私はお金を渡し、彼は手を合わせて「本当にごめん、助かった」と言い残して、またマクドナルドの方へ戻っていった。


私はタクシーを拾って、そのまま自宅へ向かった。


これからの数ヶ月――本当に、楽しみになりそう。


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