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第99話 僕だって、ここにいる。君たち三人と同じように。

「天使の皆さん、悪魔の皆さん、はじめまして〜!お会いできてうれしいです〜!」


 そう明るく挨拶したのは、黒髪の少年だった。その姿はまるでロボットアニメに出てくるキャラクターのような、紫のアクセントが施された漆黒のアーマーに身を包んでいた。


 彼はしっかりとした足取りで歩いていた。そこは空と地面しか存在しない、深い闇に包まれた不思議な空間だった。そして彼の進む道を開くように、天使たちと悪魔たちは一歩ずつ下がり、まるで神の降臨に立ち会うかのように道をあけた。


「おっと、自己紹介がまだでしたね。私は神の第五の創造物、喜稔のぶとしです。ハグキさんやリョウコさんとは違い、私は『時間の後』に生まれました」


「とはいえ、私は老いることはありません……そして、これからも老いないでしょう。それが良いことなのか悪いことなのかは分かりませんが、まぁ、楽しめることがあればそれで十分です」


「さっきまでは、みんなでマリーちゃんに大目玉をくらったばかりでした……年下の女の子にあんなに怒られるなんて、誰が予想したでしょうね?」


「この場所からじゃ、面白い舞台もよく見えないし……それに、リンコにはハグキ軍の権限がある」


「動くべきかな? マリーと接触して時間旅行の果てに『望むもの』を見つけた川城(かわき)白鳥(しらとり)も、僕と繋がっているんだ。彼女とは通信ができるし、ハグキさんたちがいる世界へ行く方法もある」


「難しいのは……僕がいる『上位世界』から、『下の世界』に降りる方法だ」


「基本的に、それは不可能とされている。アバターを持つか、あるいは本当に全能なる存在――つまり「神」に話しかけることができない限りはね」


「現時点での選択肢はひとつしかない。神と直接話すこと、それだけだ。とはいえ、それも簡単ではない。目を閉じ、心を込めて祈り続けることで、ようやく可能になる。誰にでもできるわけじゃない」


 そう言って、僕は一人で祭壇の前に立ち、静かに祈りを捧げた。


「すべてを司り、すべてを知る神よ……どうか私の心を開き、その御声をお聞かせください」


 すると、僕の意識の中に一つの幻が現れた。そこは何も存在しない、真っ白な虚空。僕以外、何もいない場所だった。


 そしてその白の中に、ひときわ澄んだ声が響いた。


「……なるほど。どうやら君も、陽葵ヒマリやマリーと同じように、楽しみたいらしいね。だが一つ、知っておくべきことがある」


「……それは、何でしょうか? どうか教えてください、神よ」


 僕は頭を深く垂れ、全身で敬意を示した。


「まず第一に、君の力は制限される。あちらで問題を起こさないようにな。そして第二に……この場所のことは『人間』には語ってはならない」


「君の『抑えられたオーラ』を感じ取れるのは、陽葵やマリーのような存在だけだ。普通の人間には感知されない。そして最後に……いずれそうなるとは分かっているが、『あの二人』にも、この場所のことは絶対に教えてはならない」


「……はい。必ず守ります。もしよろしければ、すぐにでも転送をお願いします」


「分かっている。今、君を送ろう。君はこれからいくつかのことを変えるが……それでも、『あの美しい物語』には影響を与えないだろう」


 その言葉を最後に、僕の意識は光に包まれた。眩しすぎて、何も見えなかった。


 ――そして次に目を開けたとき、僕は小さな身体の中にいた。真っ白な服を着た若い女性と、同じく白衣を着た年配の男性に抱かれていた。


 そしてその後、彼らは僕をベッドの上で横になる金髪の若い女性に手渡した。


「……こちらが、お子さんですよ」

 白衣の女性がそう言って、僕を彼女の腕に抱かせた。


 その人は優しく僕を抱きしめ、じっと見つめた――その瞬間、僕はすべてを理解した。


 ――僕は、生まれ変わったのだ。


「僕の名前は……?」

 そのとき与えられた名前は――理音(りおた)

 僕は、天野(あまの)家の一人息子として生まれた。国外にも影響を持つ大企業を複数抱える、上流階級の一族だ。

 彼ら――僕の父と母に会ったのは、この日が初めてだった。


 その後の日々、俺は心の準備を整えていた。この世界について、よく知らなければならなかった。何しろ、俺にとってはまったくの異世界だったから。


 五歳になった頃、俺は自分の家——広大な屋敷を最大限に活用して、この星とこの世界について学べる限りのことを学んだ。この世界には、他のどの世界にも存在しないような不思議なものが数多くあった。


 並行世界は無数に存在するが、この世界ほど特殊なものはなかった。それぞれの世界には独自の法則、時間の流れ、そして異なる出来事の展開がある。


 けれど、俺はだんだんとこの環境に慣れていき、いつしか昔のような不安は消えていった。


 やがて、小学校に進学した俺は、周囲よりもずっと高い準備をしていた。だが、厳しい両親の方針により、ハグキと再会することはできなかった。


 ただ、両親は一つだけ約束してくれた。十六歳になったら、自分で進学先の高校を選んでもいいと。


 もちろん、条件付きだった。どんな名門校に入っても、すべての学年でトップの成績を取り続けること。そこは天才ばかりが集まる学校だった。


 当然のように、俺はその条件を満たした。以前の世界と同じように、俺は女子たちから好意を寄せられていた。


 家では、ほとんど一人で過ごすことが多かったため、有名な電子漫画サイトで漫画を読むことで、少しだけストレスを和らげることができた。


 けれど、それでも――俺には、進むべき『運命』があった。


 ある春のことを覚えている。中学最後の年の始まりだった。


 そのとき、久しぶりにハグキの『気配』を感じたのだ。


 車を止めてほしいと頼もうかと思ったが、突然そんなことを言えば不自然だし、何より、俺には中学で友達と呼べる存在がいなかった。


 その発言一つで、計画が狂ってしまうかもしれなかった。俺の中には、両親から課せられた厳格なルールが染みついていたのだ。勉強以外のことはすべて無駄だと。


 それでも、俺は彼の顔を知った。だからこそ、探すことはできる。いつでも、見逃さずにいるために。


 そうして、去年の夏。新学期が始まったある日。


 俺が監視を頼んでいた学生から、大きな知らせが届いた。


 ○○○○○○が、「ある女の子と体だけの関係を始めた」と。


 最初は彼らも、俺の存在に気づいたかのようだったが――すぐにその存在を忘れてしまった。


 まさか、今のハグキがそんなことをするとは思わなかった。写真まで見せられて、証人の前でその話を聞いても、信じがたかった。


 彼女たちにとっては見知らぬ存在かもしれないが、その白い髪の少女を見て、俺はすぐに気づいた。


 あの子だ。前の世界でも同じようにしていた――けれど、それはすべてを救うためだった。ほんの少しでも、「外世界」に影響を与えるために。


 それを思うと、まるで大規模な物語が、狭い日常の中で静かに進んでいるように思えた。普通と非日常が混ざり合う場所。争いが生まれ、そして終わる世界。


 ……でも、俺はもうその物語の一部なんだ。それが、何よりも嬉しい。


 来年には、きっともっと近くにいられる。


 だが、そのときだった。たった一人の存在が、この世界に「声」を響かせただけで――


 天才と呼ばれていた生徒たちまでもが、彼女を音楽界の革命者と讃え始めた。


 最初は、どうせすぐに消える流行だろうとしか思っていなかった。


 けれど、日に日にその名は日本中に広まっていった。


「マリーちゃん」――みんな、そう呼んでいた。


 そのとき、ようやく俺の中で何かが動いた。


 この名前は、ただ者じゃない。外見も、どこか異国の雰囲気があるほどに可愛らしく。


 そして、彼女の姿を見た瞬間――確信した。


 彼女もまた、俺と同じ「上位世界」から来た存在だと。


 それから俺は、彼女に会うための計画を立て始めた。


 ……だが、最終的に俺を見つけたのは、彼女の方だった。


 ――こうして、現在へと物語は繋がる。


 これは、俺から見た、もう一つの『真実』だ。

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