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【義妹か】どちらかが時間停止能力者(スケベ)のようだ【幼馴染か】  作者: 訳者ヒロト


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第30話 リビング、シオンと〇〇〇

 玄関を開ける。


 家の中は静かだった。いつもならテレビなどがついていて少しは音がするのだが、それさえもない。


 シオンはソファの上で、クッションを抱きかかえて座っていた。


「あ、コウくん、おかえり」


 そう言って笑うが、笑顔は強張っていた。シオンらしくない引きつった表情だ。


 俺はその隣に座る。それだけでシオンはびくりと怯えて震えた。


「シオン」


 青い瞳を見つめる。その視線はゆらゆら揺れてどこか逃げ場所を求めるように彷徨っていた。


「大事な話がある」


「……なに?」


 シオンはクッションが形を変えるほど強く握った。緊張が俺にまで伝わってくる。


「選ばないといけない。いつまでもこのままじゃいけないんだ」


「なんの話?」


「分かってるだろ。俺とカエデとシオンの話だ。今まで3人で曖昧なままやってきたけど、これはキープ(・・・)っていうんだ。俺はクソゴミ野郎になるつもりはない、だからどちら――」


 シオンは叫んだ。俺の言葉の途中で。


「やだ!」


 目をつぶって大きく首を振る。


「いやだ! 選ばなくていいよ! ずっとこのままでいいじゃん! みんな幸せだよ!」


 声はひどく上ずっていた。こんなに取り乱すシオンを見るのは初めてかも。


 それでも伝えなくてはいけない。


「ずっと幸せではいられない。幸せにはできないんだ。学生のうちは楽しく遊んでいられるかもしれないけど……いつか大人になって家庭を持つんだ」


 ぎゅっとシワの寄った目尻から涙がポタポタ落ちていく。とても悲しい光景だ。


「俺の父親はクソ野郎だし……俺はああはなりたくない。お前なら分かるだろ」


「…………」


 シオンはごしごしと目を荒く擦った。赤く腫れ上がっている。


「コウくんはクソ野郎にはならないよ」


「このままじゃなるかも。自信がない。実際俺はクズだし、クソゴミ野郎の血を引いてるんだなって思うときがある」


「なんないよっ!」


 子どものような声。


「コウくんは優しいもの! ちょっとクズだけど、可愛げのあるクズだよ! そんなところが大好きなのに……」


 可愛げのあるクズってなんだよ。


 シオンの瞳の中で俺は困ったように唇をひん曲げていた。間抜けたツラだ。


「こんなことになるなら……わたし……コウくんの妹にならなければよかった!」


「シオン……」


 顔をびちゃびちゃにしながら泣く。


「わたしがコウくんとカエデちゃんの間に入ったからこうなって……カエデちゃんとも友だちにならなければよかったのに!」


 俺は何も考えず、ただシオンを抱きしめていた。離してと胸を押し返してくるが、関係ない。無理やりに抱きしめる。


「そんなこと言うな。カエデはシオンのことも大好きだってさ。それでシオンもあいつのことが大好きだろ? どうなってもそれは変わんないから」


 涙と鼻水で服が湿っていく。シオンはしゃくりあげながら掠れ声で話した。


「ごめんなさい……こんな風に泣くのも、困らせるだけなのに……わたしってズルくてイヤな女だ……」


「何言ってんだ」


 シオンの頭をわしわしと撫でる。ついでにティッシュで涙と鼻水も拭き取って、少しだけマシな顔になった。


「妹は兄に泣きつくもんだろ? このくらいさせてくれ」


 シオンは嗚咽を漏らしながら言った。


「大好き。コウくんが大好き。妹としても好き、女としても好き。わたしのことも好きでいて欲しい」


「…………」


 今の俺はこれに返す言葉を持っていないのだ。やはり思う。このままじゃダメだろう。


 シオンは顔をぐりぐり押し付けてきて、俺はただ背中をさすった。


 やはり俺はこの義妹を愛している。幸せになって欲しい。幸せにしてあげたい。


 俺にできるだろうか。


「コウくん」


「なんだ?」


 シオンは泣き続けたまま、それでいてはっきりと言う。


「カエデちゃんがDIOだよ」


「…………」


 またこれだ。もういい。どちらがDIOなのか悩むのはやめよう。時がくれば分かるのだから。今は考えなくていい。


「だから――カエデちゃんを選んでね」


「……なんでそうなる」


「コウくんを幸せにできるのはわたしじゃなくて、カエデちゃんだから。カエデちゃんを幸せにできるのもコウくんだけ」


「…………」


「カエデちゃんはずっと好きだったんだよ。思春期に入ってこれからって時にわたしが現れて、ずっと我慢してきたの。だから幸せにならないと」


 ……シオンの言葉は真実だ。俺はカエデにずっと苦労をかけて、我慢をさせてきた。


 シオンが現れるまで、俺はいつかカエデと恋人になって結婚することを微塵も疑っていなかった。きっとカエデも同じだ。


「わたしはもう充分幸せにしてもらった。二人のおかげだよ」


 シオンは明るく笑った。大輪の赤い花が咲いたみたいな、力をくれる笑顔だ。


「だから――カエデちゃんを選んで」


 分からない。俺はどちらを選ぶのだろう。でも選ばなくてはいけない。


 シオンは俺にぎゅうぎゅう抱きついてくる。シオンはこうするのが好きだった。俺も同じだけの力で抱擁を返す。


 やがてシオンは体を離した。


 青い瞳が熱を帯びて、物欲しそうに俺の口元に視線を注ぎ込んでくる。しかしキスをねだってくることはなかった。何がシオンを諌めるのか、俺にだって分かる。カエデへの罪悪感だ。


 シオンは首を振ってほんの僅かに表情を緩めた。


「カエデちゃんとお話ししてくる。今日はあっちに泊まるね」


「分かった。送るよ」


「ありがと、すぐそこだけど。……コウくんは家に一人で寝れるかな?」


「シオンじゃないんだ。寝れるに決まってるだろ」


 可愛い妹は俺の腹を小突いて笑った。まだぎこちない笑顔だが、笑顔は笑顔だ。


「バカにしないで。わたしは一人で寝れるし一人で起きれるから」


 俺たちは八王子家へと向かい、カエデは玄関で快く迎え入れてくれた。二人は手を繋いでカエデの私室へ。





 その後、俺は急いで駅前まで自転車を漕いだ。DIOを炙り出すための道具を揃えるのだ。そう時間は掛からず、静かな家に一人で帰ってきた。


 シオンが引っ越してきて以来、夜に家で一人なんてことは無かった。


 やっぱり賑やかな方がいい。


 日付が変わる時刻くくらいにシオンから連絡があって、「選ばれる準備も、選ばれない準備もできたよ」とだけ。


 隣の部屋から鼻歌や一人笑いが聞こえてこない静寂の中で天井を見つめる。


 明日は運命の日だ。

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