第19話 ベッドの上、3人で〇〇〇
カエデはしばらく泣き続けた。俺は慰める言葉を持たないまま、ただ抱きしめるだけ。
どのくらい経っただろう、そんなに経っていないかもしれない。
カエデがゆったりとしたペースで話し始める。
「やっぱり戻る。私とコウが一緒に寝て、シオンだけ仲間外れなんておかしいもの。笑ってたけど……寂しがってるはずよ」
「……そうかもな」
カエデは布団から出ていった。
一人になったベッドがずいぶん広く感じられる。カチカチ時計の音がやけに大きく聞こえた。
どうするべきだっただろうか。俺がずっと前からカエデに対してもっと真摯に向き合っていれば、こんなことにはならなかったはず。なあなあでやってきたツケを払わされているのだ。
たったのキスだけで――それもキスをしないというだけで――胸が苦しくなることがあるとは。
あの顔と震えるような声が頭から離れない。
俺がカエデを泣かせたのだ。いつもクールで気が強い幼馴染を泣かせてしまった。
それに催眠は解けないまま。問題が先延ばしになったに過ぎない。明日、催眠術師と対決する必要がある。
つらつらと思考が湧き出てきて、眠れそうにない。
そんなとき、そーっと部屋の扉が開かれた。
シオンだ。こそこそした声で言う。
「やっほー」
「……どうした」
「もうこうなったら――三人で寝るしかないよねっ!」
シオンはカエデと手を繋いでいた。カエデの目の腫れはもうおさまっている。泣いていた素振りなんてない。少し安心した。
やはりシオンの方が慰めるのは上手なようだ。過ごした年月は俺の方が長いのに、なんだか負けた気持ちになる。
「ゴーゴー!」
ちょっと遠慮しているようなカエデを引きずりながら、シオンがベッドに飛び込んでくる。
「ゴフッ」
その頭がみぞおちに突き刺さった。
「おい」
「へへへ。ほら、カエデちゃんも」
カエデは黙って頷き、無様なダイブを決めた。シオンは拍手をして喜んでいる。
そう広くないベッドの上、俺たちは並んだ。
「ほら、詰めて! 寝返りは禁止ですよ! いびきもおならも禁止です! ――わたしはおならなんてしないケド」
シオンがぎゅうぎゅうとエロい体を押し付けてくる。健全なる男子高校生としてはたまったものではない。眠れやしないので逆側に体を向ければ――上目遣いのカエデがいる。
これはどうやら板挟みというやつらしい。
「ふたりともおやすみ。夢の中で会いましょう――アディオス!」
よくわからん決め台詞を残し、シオンは俺の背中にけしからんおっぱいを押し付けながら静かになった。すぐにぴーぴーと鼻息が鳴る。
腕の中のカエデがくすりと笑った。
「なんだかこうなっちゃった。不思議ね」
「狭くて困るよ」
「それはうそ。狭いから困るんじゃなくて、女の子の体が魅力的だから困ってるのよ」
「……自覚あるなら自重してくれないと」
カエデは「落ちちゃいそう」なんてわざとらしく言って、体を寄せてくる。ほとんど密着した。
「あの?」
「なんだか昔に戻ったみたいで安心する。おやすみ。――私が寝たあと、少しならおっぱいもお尻も触っていいわよ」
俺はツバを飲んだ。
「少しってどのくらい? 百回くらい?」
カエデは舌をぺろりと出した。あざとい。でも可愛い。
そして目を閉じた。こんな状況で眠るというのか?
「おやすみなさい」
「…………」
やはり永遠の責め苦であった。すごく長く感じたその時間を超えると、カエデは穏やかな寝息をたて始める。
頬をぷにぷにつついてやる。起きない。カエデは頬がまんじゅうみたいだとからかわれるのがキライなので、触るのを許してくれないのだが……
本当に寝ているようだ。
だが俺は眠れない。眠れるはずもなかった。前後ろ4つのおっぱいに囲まれているのだ。
複数の女と同時に関係を持つようなクソゴミ野郎にはなりたくない。でも……嬉しい。ずっとこうしていたい。女の体――できれば生まれたままの姿で――に挟まれて毎晩眠りたい。
やはり俺はクソゴミ野郎な父親の血を継いでいるのだ。
眠れないまま体を石のように固くさせていると。
「カエデちゃん、寝た?」
後ろから囁かれる。ひそひそ声で話すのはシオンだ。
「起きてたのか」
「いま起きたの。…………カエデちゃんとは仲直りできた?」
「うーん、まあ喧嘩してたわけじゃないけど、明日からもいつも通りやってけそう、かな」
「ならよかった。ねえ、カエデちゃんには聞けなかったんだけどさ――」
シオンは唇を耳に、触れるか触れないかの距離まで近づけた。いや、触れてしまった。
ぷっくりとしてみずみずしいその感触を耳たぶに感じる。
「――二人はキスしたの?」
「……してない」
「そうなんだ。してないんだ。一応言っておくけど、私の推しカプはコウくんとカエデちゃんだからね」
また胸が痛くなる。なぜ胸が痛くなるのか、俺には理解ができない。言葉では表せない。表情を凍りつかせる俺の頭を撫でる手は、とても柔らかい。
「難しく考えないでいいんだよ。今は仲良し三人組が川の字になって寝てるだけ」
川の字というよりは嫐るだが……
シオンの手が俺の目を覆い隠した。
「おやすみ、お兄ちゃん」
それを最後にシオンは喋らなくなった。やがてピーピーと鼻を鳴らし始める。
結局、俺は寝入った。不思議なもので、チンコはバッキバキであったが眠りにはつくことができたのだ。
カエデのお尻を少しだけ撫でて、唇の感触を指で確かめて、おっぱいもちょっとだけ揉んだのは墓場まで持っていこうと思う。
俺ってやっぱりクズ!




