第17話 家、3人で〇〇〇
カエデがうちに泊まることはよくある。
小学校以前は俺が八王子家によくお邪魔していたものだが、発育が進むにつれて自然消滅し、シオンがやってきたことによって逆転した。
カエデは当然みたいな顔でソファに座っている。そして俺は爆弾処理班の気持ちでいた。ひとつ間違えればボンだ。
カエデは催眠にかかった。これはまず間違いない。普段なら絶対にしない行動を多発している。
問題はどんな催眠なのか、である。
カエデ曰くどんな男でも好きになってしまう催眠。
アキ曰く本当の気持ちを言っちゃう催眠っぽいとのこと。
確かめる方法はあるが……やめておこう。グレーのままにしておいたほうがいい物事もあるものだ。
「カエデさんや。俺はそろそろ寝ようかな。ちょっと早いけど」
「いや」
カエデはソファの上で足を抱えた。膝の上にあごをのせてちらりと俺を見てつぶやく。
「もっと一緒にいたい……」
「グウッ!」
俺は崩れ落ちた。かわいい……
シオンがカエデの隣に座り、心配そうにのぞき込む。
その瞬間。
あの感覚に襲われた。時間停止だ。
そして――俺はパンツ一枚になっていた。
「…………」
なぜだ。普通に考えて逆だろう。男が脱いだって誰も得しない! しかし俺は素肌に突き刺さるような視線を感じた。……カエデだ。
カエデが食い入るように俺の裸を見ている。
「おい……お前か?」
「はあ? 何が? いつの間に脱いだの? ていうか、なんで脱いでるの?」
「クソッ!」
目線が冷たい。カエデは目線を逸らしてテレビにやる。俺はあわてて服を着た。ズボンをはき、パーカーを被ったその瞬間。
またあの感覚。
俺は再びパンツ一枚に戻っていた。
目の前には畳まれたズボンとパーカー。売り物かと思うほどに綺麗に丁寧に折られていて、強いメッセージ性を感じ取った。
「なあDIO……俺はもう服を着てはいけないのか……?」
シオンがスマホを降ろして俺をぱちくり見つめる。
「コウくん、服に土下座してるの? それはなに?」
「クソがっ!!」
いったいなんだというのだ。……いや、DIOが裸でいろというのであればそれを受け入れよう。もうなんでもいい。
「なあ、いっそパンツも脱ごうか?」
しかしカエデの目に浮かぶのは侮蔑であった。なぜ? なぜこれで俺が蔑まれねければならないのか。納得いかねえ。
「幼馴染が自宅にいる状況で全裸になった場合、猥褻罪で捕まるのかしら? 試してみる?」
「捕まんないだろ。だって俺の家だぜ。裸が正装なんだ」
そうだ。俺は間違っていない。堂々としていればいいのだ。
「服とかどうでもいいから、催眠を解く方法を考えないと」
シオンがぴしりと手を挙げた。
「解かなくてもいいよ! カエデちゃん、こっちも可愛いもの」
そう言ってカエデに抱きつき、頬ずりし、頭を撫で回す。「嬉しい?」と問えばカエデは消え入るような声で「もっとして」と漏らした。
シオンは大はしゃぎしてカエデをもみくちゃにする。
「あの、俺も混ざっていいですか?」
「だめでーす。女の子だから許されるんだから」
「俺のことは、そうだな……ペニバ――」
カエデがクッションを投げつけてきて俺の言葉は途切れる。ナイフみたいな目つきで一言。
「シオンの前で何言おうとしてるわけ?」
「なんてカンのいいやつ……エロワードに対する反応速度はさすがだな」
俺はカエデの横に腰を下ろした。カエデがちょっと離れていく。ムカついたのでぎゅっと寄せた。
「ちょっと、なんかせまいよぉ」
ソファの端のシオンが不平を述べるが関係ない。カエデは顔を真っ赤にして黙っている。いや、黙らせてやったのだ。初心なやつめ。
「よし。作戦会議だ。カエデ教官の催眠を解かなきゃおちおち学校も行ってられねえ。教官が学校を休んだら――我々は自動的に留年ということになる」
「その通りであります! シオン二等兵、教官がいなければやっていけません!」
「自分たちでどうにかしようというつもりはないのね」
シオンがスマホを片手にカエデの前に立った。何やら自信ありげな表情だ。
「ワン、ツー、スリー、はいっ! 解除!」
手をパチンと合わせる。
「……だめね」
カエデは首を振った。
まあそうだろう。これはただの催眠じゃない。能力バトルなのだ。時間停止と同格の異能なのかもしれない。
「経緯を詳しく説明してくれよ」
「…………私と夏山くんは女子テニス部室の裏で待ち伏せしていたの。夏山くんのパンツを部室内にぶらさげてね。そしたら女子生徒がのこのこやってきて、すぐに取り押さえたのにいつの間にか逃げられて、気づけば中庭で倒れてたってわけ。催眠に気付いたのはそのあとよ」
アキの子供っぽいパンツはエサに使われたらしい。哀れなり。
「顔は見てないのか? そいつを捕まえたら何か分かるだろ」
しかしカエデは首を振った。
「それが顔を覚えていないの。向かい合って話さえしたはずなのに、顔だけが思い出せない……制服を着ていたのだけは確か。それから――神様を名乗っていたわ」
何言ってんだよ。俺は理解を放棄した。
「神相手なら俺の出番はないな。だって俺は神頼みで生きてきたんだ、恩をあだじゃ返せない」
カエデは消え入るような声で言った。
「実は……解除方法も教えてもらったの」
「なんだ、それを早く言えよ。どうすればいいんだ?」
「…………」
カエデは黙って俺の顔を、というか唇をじーっと見つめる。俺は思わず天を仰いだ。これはこまったことになったぞ。




