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第1話 ふざけるな

 止まった時間が動き出したと思ったら、俺のチンコはバッキバキだ。


 ふざけんじゃねえッ!


 まただ。またやられた。これで何回目だ? 何度俺のチンコにイタズラすれば気が済むのか。


 全ては時間停止能力者の仕業だ。


 暴発寸前でお預けをくらった我が息子はバイブみたいに痙攣している。かわいそうに。パンツと擦れる痛みだけで達してしまってもおかしくない。


 ふざけるな。ふざけんじゃねえ。


 俺は屈しない。絶対に屈しないぞ。


 食いしばった歯の隙間からフーッと呼気を吐き出し耐える。無だ。無を思え。


 そうしていると、息子は徐々に怒りを鎮めて可愛らしい形態に戻り、巣穴へと帰っていく。


 束の間の安息。


 そして――


 また唐突に"あの感覚"。 


 俺は停止した時間の間に起こったことを認識できない。ただ不思議な感覚があるのみだ。こめかみを小さな針でチクリとやられるような、連続する映像にワンフレームだけ真っ黒な画面が挟み込まれたような、ほんの小さな違和感。それが時間停止が行われたことの証明。


 それはまばたきよりもずっと短い。


 俺のチンコは再びバッキバキになっていた。散々虐められて真っ赤に腫れあがり限界を訴えている。


「ふざけんじゃねえッ!!!」 


 思わず叫ぶ。


 今は授業中だ。教室の一番後ろ、俺が椅子から立ち上がり大声を響かせたことで総勢八十近くの目玉がこっちに向く。


 だがまったく気にならない。それどころじゃないのだ。


「俺のチンコを――時間停止で寸止めすんじゃねえッ!」


 唐突に"あの感覚"。


「またかよッ!」


 時間停止が行われた。違和感を探せ。奴は何かをしたはずだ。何か変化があるはず。


 きっと俺の目は血走っているのだろう。立ち上がり教室からの視線を集めたまま俺は首を振ってたった一瞬前との変化、世界にもたらされた変化を探した。


 そして気付く。


 右手の手の平にマジックペンで文字が書かれていた。


――おねだりして♡


「するかッ!!!」


 全身の血という血が脳みそまで上がってきて、きっと俺の血液は脳内とチンコに二極化されているに違いない。そういう憤怒と肉体的興奮を声として吐き出す。


「見つけてブチ犯してやるからなッ!」


 尊厳を守らなければならない。


 右と左からクスクスと、我慢しきれず漏れてしまったというような笑い声が聞こえた。


 義妹か、幼馴染か。左右を交互に睨みつける。どっちだ。どっちの仕業なんだ。


 唐突に"あの感覚"。


 今度は違和感を探すまでもなかった。


 全身の筋肉から力が抜ける。心地いい疲労感に満たされて、生物としての使命を達成したような、そんな気分になる。俺のチンコは芋虫みたいに小さくなって、さらに丁寧に拭き掃除までされているようだった。


「はひぃ……」


 思わず情けない息がこぼれてしまう。


 脱力したまま俺は椅子に座り込んだ。それはよほど激しい行為だったのか、あるいは複数回に及ぶものだったのか、立ち上がろうとする気力すら残っていないのだ。


 ふと右手を見れば、「ごちそうさま♡」と書かれていた。


 なんだか眠たくなってきた。


 教師が夜の街にいる酔っぱらった狂人を見るみたいな眼差しをこちらに飛ばしているが、知ったことか。俺は机に突っ伏した。


 右と左、どちらからか「おやすみ」という声が聞こえた気がする。


「くそが……」


 日常がこんなふうになってからどのくらいが経つだろうか。


 分かりやすく説明するためには、最初から語る必要がある。


 そう、あれは高校二年の春、始業式明けの課題テストの日だった。その日、俺は義妹か幼馴染のどちらかが時間停止能力者だと気付いたのだ。

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