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9.醒めた朝

 私が目を覚ますと柔らかなシーツの感触を感じたが、これはいつものシーツではないことに気づいた。周囲は静かでわずかな光がカーテンの隙間から差し込んでいる。体がだるく頭がぼんやりとしているのは昨晩ワインを飲んだせいなのだろうか。


 頭を押さえ乍らふと横を見ると、隣には見知らぬ男性が自分と同じ姿で寝ころんでいる。一体誰!? 助けを呼ぼうかと思ったが、どうやらここは自分の家ではない。それに今私は何も着ておらず下着姿なのだ。


 鼓動が早くなり頭はパニックになりかけている。深呼吸をしてなんとか落ち着こうと努めているうちに男性が目を覚ました。


「おはよう、昨晩は楽しかったね。誘ってくれてありがとう」誘った!? 私はこの男性を? 何に誘ったのだろうか。お酒? それとも……


 ベッドのそばには洋服が散らばっている。あわてて自分の服を拾いながら胸元を押さえた。おそらく私は何らかの事情でここに連れてこられたのだろう。きっと自分の意志ではない、そう思いたかった。


『大丈夫、冷静になるのよ。今のところ乱暴された形跡はない』自分に言い聞かせながらゆっくりと男性の顔を観察する。随分と若い彼は甘く優しい顔立ちをしている。それでも彼が誰なのか全く思い出せない。


 私は何とか服を着ることに成功し、部屋の壁へ背中を付けて最大限の警戒を態度で示した。しかし彼は優しく微笑むだけで何も言わない。聞けば事情を説明してくれるだろうか。不安だけが私を埋め尽くしていく。


 一歩後ろに下がり部屋の出口を探った。ドアは少し開いている。そっと外を覗き見て見ると薄暗い廊下が広がっていることがわかった。緊張は高まっていくがここに留まっているわけにはいかない。


 かと言って、走って逃げたら追いかけてくるかもしれない。突発的な行動で彼を刺激せしないようにと考えた私は意を決して声をかけることにした。


「あの…… あなたはいったい誰なの? 申し訳ないけど全然覚えていないのよ。きっと飲みすぎてしまったんだと思うの」これは事実であり本心である。いったいなぜこんなことになってしまったのだろうか。


「僕はハズモンド、知らないと言われるとショックだけど仕方ないか。なんぜ全く目立たないポジションだったからね。一応同僚だったんだけど? 僕はキミのことを覚えていたよ、バーバラ」それは事実なのだろうか。同僚と言うことは国立薬草研究所で一緒に働いていたと? 私は必死に記憶をたどる。しかしやっぱり思い出すことができなかった。


「それにしても驚いたよ。あんな安酒場に突然現れるなんてね。酒は飲まないのかと思っていたし、騒がしいところへやってくるイメージもなかったんだ。でもおかげでこうして再会することができた」


「ということは私はその酒場であなたに会ってお酒を飲んだのかしら? どれくらい? そうじゃない、一人だったのかしら……」私はハズモンドへ向かってと言うよりは独り言のように呟いた。実際に自問自答したくなることばかりだ。それにあれほど念を押したのに、グラムエルもカトリーヌも助けてくれていなかったのだろうか。


「少し遅くなったけど僕は仕事へ向かわなければならない。キミはこの後どうするの? 良かったらこのまま帰ってくるまで待っていてくれないか? もっとキミのことを知りたいんだ」そうは言われても私は別に知りたくもないし忘れたいくらいだ。今すぐにでも帰りたい。


「なぜ? なぜ私のことを知りたいだなんて言うの? 私は結婚していて夫がいる身なのよ? 泊めてくれたことには感謝するけど、あなたと、その、そう言う関係になりたくはないの」もうどうにでもなれと半ば投げやりにではあるが、きちんと伝えなければわかってもらえないだろう。穏便に済むかどうかはわからないが、私は帰るためにハズモンドへきちんと断りを入れる。


「でも彼、グラムエルはキミを愛していないじゃないか。白い結婚であることは職場の誰もが知っている事さ。グラムエルの愛する相手はカトリーヌなのだからね」


 ハズモンドの言葉に、私は脳天を強く叩かれた気分になり床へとへたり込んだ。


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